トップインタビュー 「コモンズ30ファンド」
30前後の厳選銘柄、30年の長期目線で勝負
コモンズ投信代表取締役社長 伊井哲朗氏に聞く

30年という超長期目線で、国内外の株式を対象に投資を行う「コモンズ30ファンド」。
独立系投資信託の場合、ファンド・オブ・ファンズ(さまざまな投資信託を購入する形で運用する投資信託)のかたちを取ることが多い。
しかし、財界の大御所として活躍した渋沢栄一氏の玄孫(やしゃご)に当たる渋澤健氏を会長に抱えるコモンズは、独自のリサーチ力で銘柄を厳選している。パフォーマンスも良好なコモンズ投信の代表取締役社長である伊井哲朗氏に、立ち上げた背景や運用手法などについて聞いた。
時間を味方にして個人の強みを発揮
──コモンズ30ファンドを立ち上げた背景は。
「第1に、『個人の金融資産を運用する上での選択肢の1つ』ということが挙げられる。機関投資家の優位性はたくさんの情報を持っていることだが、一方では値下がりが大きくなると売らなければいけなかったり、値上がりが大きくなると買いづらいといった制限がある」
「他方、個人は情報力の点では劣っているが、会計などの問題がなく、小型株も狙えるため、機関投資家が買えない銘柄を買うことができる。時間を味方に付けて、長期の運用が可能である点が強みだ。ここで長期投資と短期投資のうち、どちらがいいかという議論をするつもりは全くない。ただ、個人の優位性は前に述べたように長期運用が可能なところにあるので、それに合わせた金融商品があってもいいのではないかと考えた」
「第2の背景は、株式市場に長期のお金が入るようにして、日本の資本市場を改革したいから。現在の日本の株式市場は、個人が3割の売買シェアを持っている。そのうちの9割はネットからの注文になっており、短期で運用している人が非常に多いのが現状だ。機関投資家にしても、3年くらいの目線でしか投資できない。全体的に短期の投資家が非常に多いといえるだろう。流動性を供給しているという意味では大変良いことなのだが、一方で長期目線の投資家があまりに少ないことが問題であると認識している」
「企業の経営者の方々とお話をすると、まさにその長期投資家の不在について指摘されることが多い。例えば、30年間使ってもらう工作機械を作るトップメーカーは、当然のことながら30年先のことまで考えており、経営の時間軸が長い。短期のリターンを求める株主と、長期で物事を考えている経営者の間には、時間軸の大きなギャップがあるわけだ。企業にとってはいかに良質な株主を作るかが課題となっており、その解決は結果的に企業の成長力を高めることになる」
「見えない資産」こそ企業本来の価値
──組み入れる銘柄を30程度に絞っている理由は?
「アクティブ運用は平均を上回らなければいけない。しかし、50銘柄を超えてしまうと、増えるにつれて段々と平均に近づいていってしまい、パッシブ運用になってしまう。かといって、1銘柄だけではさすがにリスクが高い。そこで社内で検証した結果、20銘柄を超えると十分に分散効果が表れることが分かった。20―50銘柄以内で収まれば分散効果も出てリターンも出しやすいということになる。そのため30銘柄程度で運用することにしており、7月末時点では23銘柄に投資している」
「また、投資家は中国や環境、農業といったように、テーマで投資信託の説明を受けている場合が多く、銘柄がたくさんあり過ぎて結局中身が分からない。リーマンショック後に投資信託を保有する方々と話をしてみると、『もう少し中身について理解をしていなければいけなかった』という思いを強く持っていることが分かった。その点、われわれのファンドなら、30銘柄程度に絞った長期投資で基本的に中身の銘柄もあまり変わらないため、投資家側からすればどのような銘柄が入っているか見えやすく、安心感がある」
──ほかの投資信託と比べると厳選しなければいけない分、銘柄を選ぶ作業が大変そうだが、基準となるのは?
「企業価値を持続的に高めていける企業であるかどうかというのが、一番のポイントになる。といっても、今は新しく小さい会社だが30年後にものすごく成長している企業なんて、誰にも分からないし、狙ってもいない」
「長期で見れば、株価は最終的にはファンダメンタルズにある程度、収斂(しゅうれん)して形成されていくと考えている。具体的な銘柄探しの作業としては、まずは財務データをしっかり見ることだ。例えば50年の歴史がある企業であれば、少なくとも30年間のデータは見る。ただ、財務データだけでは限りがあるので、バランスシートのような『見える資産』以外に、どういったポテンシャルのあるお客さんをターゲットにビジネスを行っているのかなど、数値化されていない『見えない資産』も見る必要がある。それが企業の本来の価値であり、企業の本質的な競争力は、こういったところまで見ないことには把握できない。『見えない資産』を見極めるため、企業訪問などによって約150社の経営者やIR担当役員との対話も実施している。今のところは日本企業だけだが、商品の設計上はどこの国の株でも買えるようになっているので、われわれの考えにさえ合えば、グーグルやジョンソン・エンド・ジョンソンなども買えなくはない。100社とか200社に投資しているファンドでは、この『見えない資産』はほとんど分からないのではないか」
投資家と投資先交えたミーティングで差別化
──独立系投資信託の先駆けといえる「さわかみファンド」との違いは?
「澤上(篤人)さんとは10年近く前から勉強会などを通じて存じ上げており、とてもリスペクトしている。セミナーも一緒に行ったりしているが、違いということで言えば、あちらは組み入れ銘柄数がおそらく200銘柄以上と多いこと。コモンズは30銘柄程度と集中投資をしている点がまず違う。テクニカルな面からいうとそんなところだが、お客さんの側からすれば随分と異なる。澤上さんのようなカリスマ性のある方がいるファンドの場合は、澤上さんに運用を託すというイメージ。コモンズの場合は澤上さんのようなスーパースターはいないが、ファンドを買ってくれた方が、投資先の企業と話せることが特長だ」
「今まではエーザイ、HOYA、今月も東京エレクトロンとミーティングの機会を設けており、これからも定期的に続けていく。おそらくそういったことを実施しているファンドはなく、新しいアプローチといえるだろう。(投資信託保有者の)参加者は50人前後で、今まで企業側にはたまたまIR担当の方に出席していただいているが、経営者の中にも出たいと言ってくださっている方がもう既に何人かいる。近い将来、投資先の企業の経営者と(投資信託保有者が)話をできるようになるだろう」
──たいへん興味深く、投資家にもメリットがあるイベントだと思うが、ほかのファンドが投資家と投資先を交えたミーティングを行わない理由は?
「われわれの場合は運用と販売をどちらとも手掛けているが、普通は運用会社が別の販売会社に投資信託の販売をお願いするスタイルをとっている。すると、運用会社側からはそもそもお客さまの顔が見えないので、そういったアプローチをしようということにならない。販売会社が仮に行おうと思っても、長期投資の感覚がない以上、企業側にとってはそのファンドを持っている人が本当に長期的に応援してくれるかどうか分からない。それに対して、コモンズは長期的に企業を応援するファンドであり、その点、企業側からするととても分かりやすい。メンバーにしても、長期投資の経験を積んだ非常に優れたメンバーがそろっている」
「前にも述べたように、企業の経営者はいかに自分たちにとって良質な株主を作るかが大きな課題。そのため、われわれのコンセプトに賛同してくれている経営者はすごく多く、投資家を交えたミーティングが可能になっている」(U)
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