日本株「著しい上昇」へ
米国経済復活、これだけの理由
武者リサーチ代表・武者陵司氏語る
ドイツ証券元副会長の武者陵司氏(写真)といえば、株式市場における知名度の極めて高い有力ストラテジストだ。かつて、長らく「弱気派論者の第一人者」として通っていた経緯から、ベテラン市場関係者の中には、なお反感を持つ人もいるが、近年は、むしろ強気派の代表的論客と言っていい。昨年7月には、12年余を過ごしたドイツ証券から独立し、「武者リサーチ」を設立して代表に就任。独立の要因として「ドイツ銀行グループ以外の顧客にも幅広く情報提供したい」と語り、レポート類もネット上で公開している。その武者氏が9日夕刻、財団法人資本市場研究会主催のセミナーで、「金融危機の総括とグローバル経済の展望」と題する講演を行った。主な発言内容は以下の通り。
デフレの主因は“異常な円高”
「今日(9日)、『大相場が始まった、可能性大』と題するレポートを発行した。こうした見方は、世間一般の常識とは大きく異なるが、過去の経験から言っても、ギャップが大きい時ほど、チャンスも大きくなる」
「ポイントは3点だ。1年前から言っているが(1)米国経済の力強い回復が、今年はよりはっきりしてくる。そして(2)ドルの復活。巷間のドル暴落論などは、とんでもない的外れな議論だ。こうした流れのもとで(3)日本経済の急速な回復と、日本株の著しい上昇、そしてデフレ脱却につながる」
「今後も『持続的な株価上昇があるか』という議論の雌雄を決する分岐点は、米国経済の先行きをどう読むかにある。カギを握るのは、『在庫』『雇用』『設備』『バランスシート』の4点だ」
「個々に見ていくと…。米国『企業在庫』の推移は、一昨年をピークに急減し、直近4年間で最低水準となった。雇用面も、通常なら不況期にピークを付ける『労働分配率』が、逆に過去最低水準にある。リセッションを口実に、むしろ過剰な雇用削減が行われ、調整は120%完了した。一方、企業部門では、『設備投資』がピーク比3割以上急減する中、『キャッシュフロー』は依然、最高水準を保ち、この結果、両者の差である『資金余剰』は3000億ドルを超える空前の規模に積み上がった。米国企業の余剰資金は、M&A(企業合併・買収)や自社株買い、現金配当など前向きな用途で金融市場に戻ってこよう」
「これらの数字を全く報じないのは日本のメディアの怠慢だ。もはや『解釈の問題』ではなく、データに基づく明白な事実。『米国企業もバランスシート調整が必要』といった議論は全く意味をなさない」
米国は過少消費
「米国経済が、過剰債務のもとでの過剰消費に支えられていたのも、随分前の話であり、『自動車販売台数』『一戸建て住宅販売戸数』推移を、それぞれ10年移動平均値と比較すると、現在は過剰どころか過少消費となっていることが分かる。経済状態が落ち着けば、ペントアップディマンド(我慢の積み上がり)分の消費拡大が想定され、実際、耐久消費財販売に現れつつある」
「昨春の株価底打ちとともに、ドル安が進んだが、ドルからの『逃避』ではなく、ドルによる『投資』、ドルキャリートレードによるものだ。とはいえ、先行きの利上げが意識される中、ドルを借りるリスクが強まり、ドルに代わるファンディングカレンシー(調達通貨)が必要になってきた。となると、ゼロ金利の続く日本円しかない。前週末の英フィナンシャル・タイムズ紙、8日の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が揃って『円キャリートレード』の有効性を指摘したのは象徴的だ」
「そもそも、為替相場は長期にわたって、異常な円高水準におかれてきた。長期に及ぶデフレの背景のさまざまな要因が語られているが、主犯は『円高』にある。本来、各国通貨は、本来の実力である『購買力平価』を反映して形成されるものだが、日本円の場合、20数年にわたって、購買力平価とかけはなれた円高水準が続いてきた。経済合理性から言えば、1ドル=200円の実力しかない時期に、同100円に買われたのが典型だ」
「1980年代の日本異質論が盛んだった頃、半導体をはじめとする日本の『異常な競争力』を封じ込めるために、為替相場の形成に、何らかの政治的な意図が作用したこは想像に難くない。本来の実力とかけ離れた円高への対応には、コスト削減を進めるほかなく、結果的に価格低下、つまりデフレとして現れた」
1ドル=115円ならば
「95年から一昨年までの名目GDPの変化率は、中国5倍、韓国2・5倍、米・独2倍に対し、日本は0・9倍。規模の面では最悪ながら、一方で、労働生産性は最高レベル。また労働生産性を1人当たり雇用者報酬で割った『ユニット・レーバーコスト』は突出した改善ぶりとなるなど、効率面の向上は著しい。中国異質論の言われる昨今は、日本を封じ込める必然性もなくなった。為替が今後、仮に購買力平価並みの1ドル=115円に戻るとすれば、劇的な企業収益拡大となって現れるはずだ」
「当面の株価見通しについては、正確に予測できるとは思っていないが、日経平均で1万4000円程度までの上昇なら、軽くいっても不思議はない。2、3年先として見れば、2万円乗せも十分あるのではないか。ただし、市場要因は十分に分析しているわけではないので、タイミング的なズレは生じるだろう」(A)
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