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インタビュー2023年5月29日

トップインタビュー 共同印刷 藤森康彰社長に聞く 印刷業のイメージ一新へ

「ペーパーレス」でも成長産業

「印刷会社」に対する投資家のイメージといえば、堅実ながら地味なオールドエコノミーといったところか。いまだに“町の印刷屋さん”のイメージが強い方もいるかもしれない。ところが、実際には足元で大きな変革期を迎えている様子。「印刷業のイメージを変えていきたい」と語るのは、業界大手の共同印刷(7914・P)・藤森康彰社長(写真)だ。例えば、定評ある技術力をベースに交通系カードで高いシェアを誇る同社がPBR0.3倍台という低評価を強いられているのは市場の誤解なのか。現在の業界環境や先行きの展開などについて、藤森社長に話を聞いた。

――今年で創業126周年という長い歴史を持つが、その出発点は?

「博文館という出版社の印刷工場が当社の前身だ。現社名となってからは再来年で100年となる。出版印刷を出発点に、ポスター、チラシなどの商業印刷物や、シェアトップのラミネートチューブ(歯磨き粉など)をはじめとするパッケージ系の印刷、そして、交通系などのICカードへと事業領域を広げてきた」

――デジタル化、ペーパーレス化が急速に進み、出版の苦境が伝えられるなか、印刷業界の環境も非常に厳しいのではないか。

「日本の印刷会社は約2万社と言われるが、その大半は中小企業で、家族経営の会社も多い。仕事量減少に後継者不足もあって、こうしたところに廃業が相次いでいるのは事実だ。ただ、私が入社した1970年代には既にコンピューターが使われ始めていたように、印刷のデジタル化は意外と早くから進んできた」

――デジタル化でどんなことができるのか。

「昔ながらの印刷と言えば同じものを大量に刷ることだが、膨大なデジタルデータ処理によって、機密性の高い個人情報を一件一件別々に印刷して送付することも可能になった。当社はセキュリティ管理において日本でも有数の工場を持つ。現在、他の企業や自治体の業務の一部を受託するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が一定の事業規模に成長しているが、今後も健康や相続など機微な個人情報を扱う多彩な分野の開拓が期待できそうだ」

“業界でも珍しい知財畑出身”

――技術力に自信を持っているようだが。

「日本の印刷会社で初めて研究所を設立したのが当社だ。もともと技術オリエンテッドな企業風土がある。私自身は入社以来20年以上特許業務を担当した経験があり、知財畑出身の社長は大手でも珍しいのではないか」

――新分野も育っている様子。現在の延長線上で成長していけるのか。

「足元は順調に来ているが、実際のところ、ラミネートチューブもICカードも私の入社時からあったもので、事業ポートフォリオ自体それほど変わってはいない。受注産業である印刷業は、顧客の求める品質、価格、納期を満たすことに心血を注いできた分、どうしても受け身になりがちだ。そこでまず『10年後にこうなりたい』という会社のイメージ、ゴールを先に決めて、そこを起点に逆算する形で中期計画を策定し、5つの重点テーマを中心に取り組んでいる。最も重要なのは金融、公共サービス、ヘルスケア、教育などの『新規事業領域』を早く見つけることだ。その実現に向けて人材戦略を重視している。『企業は人なり』が私の信念。人への投資として、社員のまなび直しを後押しする施策も始めている。給与面では、今年は例年にない5%のベースアップも実現した。120周年事業として建て替えた本社社屋も昨年竣工。真新しい本社で社員が楽しそうに働く姿を見ると、嬉しい気持ちになる」

――6年前の120周年ではコーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」を制定した。

「グループで一体感を持ってもらえるよう、当初の何百という候補から十分に時間をかけて絞り込んだ。『共に良くなる』ようにという思いを込めている。社員の間でもすっかり浸透してきた」

――とはいえ、PBR0.3倍台。まだ市場評価は芳しくないようだが…。

「早く業績で結果を出して株価を上げたい。今後はさらに付加価値の高い商品を作って利益率を高めていく。株主還元については、配当と自社株買いを含め総合的な施策を実施していく。受注産業の“裏方気質”からの変革に挑戦し、会社の未来像などについてもっとアピールしていくつもりだ」(K)