JIA 白岩直人社長が聞く
「自動運転・DX・AI」時代到来で需要拡大
新進 気鋭のIPO(新規上場)社長とジャパンインベストメントアドバイザー・白岩直人社長によるトップ対談。今回の対談相手は3月27日上場のダイナミックマッププラットフォーム(336A・G、以下DMP)の吉村修一代表取締役社長CEO。同社は高精度3次元データの生成・販売などを行う。日本では高速道路など3・3万キロメートル、海外は米国の120万キロメートルなど計150万キロメートル超のデータを持ち、世界で断トツ。事業は①自動運転、先進運転支援システム向けに高精度3次元地図データ(HDマップ)を提供する「オートモーティブビジネス」②高精度3次元データや関連技術を活用したソリューションを提供する「3Dデータビジネス」に分かれる。
白岩 これまでの歩み。
吉村 「自動運転普及のため高精度3次元データが必要という政府認識のもと自動車会社10社が協調出資して2016年に設立。国内の道路データを整備しながら海外にも進出し、19年に米GM系企業を買収した。これにより日米連合の形で高精度3次元データを提供できる会社になった。自動運転以外へも事業領域を徐々に広げてきている」
白岩 HDマップの競合状況。
吉村 「設立の経緯から日本では競合はいない状況。米国系も淘汰(とうた)が進んだ」
「競合と言えるのは、SDマップ(従来のカーナビ用地図)大手の欧州系2社。SDマップビジネスが地図アプリの台頭により厳しくなったため、この5年間HDマップへの投資が進んでいない。当社はその間投資を続け、結果、カバレッジ差が拡大。データ保有量は彼らの5~6倍に達する。欧州企業のデータを10年代に採用した海外自動車メーカーも、カバレッジ差を勘案して当社データに切り替えていくことを期待している 」
白岩 今後3~5年で企業規模、企業価値をどのように高めていこうとお考えですか。
吉村 「上場時、全社員に『次はプライムに行こう』と伝えた。今は業績規模、財務体質などをプライム基準にすることを目標に事業している」
「オートモーティブ事業は手堅く伸びていく。3Dデータビジネスは、新規性が高く、マーケットも非常に大きい。日本だけでなく海外でもライセンス展開したい。ここをしっかりと伸ばし、高い収益性を実現できれば、結果としてプライムが見えてくると考えている。最近はAI学習用途の需要も増え、半導体メーカー、自動運転のソフトウエア、システムメーカーから引き合いがきている。既にあるデータをそのまま提供できるため利益率が高い」
「ノンオーガニックな成長に向け、3Dデータビジネス分野のM&Aも選択肢の一つ。測量など川上やインフラ管理など既に3Dデータが活用されているソフトウエア会社など川下で垂直統合できればと考えている」
白岩 黒字化のタイミングは。
吉村 「それについては開示しない方針をとっているが、利益に強いこだわりを持ち経営しており、できるだけ早い時期に調整後EBITDA(減価償却、支払利息、税金を差し引く前の利益)でプラスを達成したい。“調整”とは政府補助金を足し戻したもの。当社はディープテック型で研究開発も重要だが、キャッシュアウトをどんどんしていいかというとそうではないと考えている。国のプログラムなど補助を取りながら、規律を働かせて経営していく。投資家の皆さまにも調整で戻したキャッシュフローベースに近いところで利益を見ていただきたい」
白岩 事業に影響を与え得る構造的転換点について。
吉村 「自動運転の過渡期にAIが出てきたことは大きな転換点。高精度3次元データとAIは完全に補完関係にあり、市場拡大につながる。3Dデータビジネスは人手不足やインフラ老朽化、DXが転換点。労働集約型産業や物理的作業を伴う業界において、高精度3次元データの価値は非常に高まってきている。先日、NVIDIAの方が『日本はフィジカルAI(現実世界の物理的な法則や環境を理解し、それに基づいて行動・判断できるAIシステム)に関して世界をリードできる可能性がある』と話していた。われわれはずっと前からそうしたことを考えてきた」
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吉村修一氏プロフィール
三井物産、産業革新機構(現、INCJ)を経て、2017年にDMP社外取締役に就任。その後20年に同社取締役副社長、22年に同社代表取締役社長に就任。
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白岩直人氏プロフィール
三和銀行(現、三菱UFJ銀行)を経て、45歳でジャパンインベストメントアドバイザーを創業し8年でマザーズ市場(当時)への上場を実現。金融商品の組成・販売などを中心に、主に金融ソリューション事業を展開し、日本全国に数千社の顧客基盤を有する。新規事業にも積極的に取り組み、2015年に日本証券新聞社を子会社化。
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≪取材後記≫
DMPは、センチメータ級の精度を誇るHDマップと、グローバルなマップカバレッジを確立し、自動車メーカー35車種への搭載実績を誇るなど、自動運転市場での地位を確立しつつあります。また、3Dデータビジネスは、社会課題解決への貢献とともに、巨大な潜在マーケットがあり収益力の向上が期待できるビジネスです。市場認知度や販路の点では成長の余地もあり、規律ある研究開発を進めながら調整後EBITDAの早期黒字化を目指していく、吉村社長の経営方針は合理的であり、吉村社長の意気込みを強く感じることができました。今後の成長市場における同社の飛躍に期待します。