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トップ記事2025年5月28日

噂の英国ファンド AVIとは何者か アセット・バリュー・インベスターズ 坂井一成日本調査責任者に聞く

豊田自動織機“株式非公開化”の立役者との声も

2018年のTBSHD株主提案で一躍市場にその名を知らしめた英アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)。近年は大量保有報告書提出が活発化してきたほか、4月にはロート製薬(4527・P)、今月もワコム(6727・P)への公開キャンペーン実施で話題を呼んだ。市場の関心を集めるAVIとは、どんな戦略で日本株に投資しているのか。来日中の坂井一成日本調査責任者(写真)に話を聞いた。

――AVIとはどのような投資主体なのか。

「英国で投資信託の運用を行っている。もともと1889年に設立された投信の運用を1985年に受託。AVIを冠する名称に変更し、ロンドン証券取引所のメイン市場に上場されている」

――ロンドン市場にアクセスできれば、日本人でも売買できるのか。

「そういうことだ」

――運用資産規模は。

「グローバルでざっと3,400億円。うち1,200億円程度が日本株で運用されている。日本株に特化した運用ストラテジーをローンチしたのが2018年。近年は経済産業省や東証主導でコーポレートガバナンス改善の取り組みが加速したこともあって、日本株の運用残高は年々増加している」

――華々しいデビューとなった18年TBS株主提案後の主な歩みを聞きたい。

「例えば、20年にフジテックのキャンペーンを実施し、23年はNCHDに株主提案。昨年は豊田自動織機とアイチコーポレーションに親子上場解消の要請を行った」

――NCHDの株主提案は一部可決されて大いに注目された。一方のフジテックと言えば、その後の22年5月の香港オアシスの創業家追求キャンペーンが有名だが…。

「我々はあくまでも事業面にフォーカスしたキャンペーンを行った」

――豊田織機への要請も非公開化の伏線に?

「それは分からない。ただ、非常に広い意味では、我々の公開キャンペーンを通じて多少なりともガバナンスに対する意識に変化が生じた可能性はあるのではないか」

――詳細な調査や銘柄発掘には手間暇を要する。日本株の人員体制は。

「サイトに開示のある通りで、ジョー・バウエルンフロイント代表の下、私と、日本人を含むアナリスト2名、マネージングディレクター、シニアコンサルタント、日本株専門ではないがESGアナリストも加わる。1人を除きロンドン常駐だ」

――となると面談もオンライン中心だろうか。

「対面が基本。その都度来日することになる」

――4年連続で株主提案してきたエスケー化研を今年は見送るのか。

「支配株主を除いた一般株主の間で、複数年にわたって5割強の賛成票を集めてきた。再びそれを証明する必要もない」

――キャンペーンを実施した2社の反応は。

「ワコムは株主提案として出した一部議案と同じ内容の議案を理由を変えて出してきた。ロート製薬も初めて定量的な長期ビジョンを発表しており、対話開始から数カ月たたずして具体的なアクションが表面化した」

――キャンペーン効果か。今後も行っていく?

「そうではなく、誰の目から見ても反論の余地のない内容だったからだ。キャンペーン自体は、ガバナンス上の不備がある際などやむなく公開するもので、決して本意ではない。投資先約30銘柄全て水面下で対話を行っており、できればキャンペーンのような形にはならないことを望みたい」

――「アクティビスト」とは一線を画すと。オアシスや旧村上ファンドと一緒にされたくない?

「アクティビストと呼ぶのはできれば控えていただきたい。オアシスさんはヘッジファンド。村上ファンドさんはファミリーオフィスで、受託者責任がない。ストラテジーも運用形態も異なる」

――それなら何と呼んだらより適切なのか。

「『エンゲージメントファンド』なら全く問題がない。ただし、本来スチュワードシップコードを受け入れたアクティブファンドは定義上、全て当てはまるわけだが…」

――日本のガバナンスの現状をどう見るか。

「18年当時は、海外投資家というだけでIR担当も含め一切面談に応じない企業も散見された。一定程度進んできたことは確かだが、“お上”に言われて形式的な体制を整えた面が残り、上場企業の取締役会が実質的なガバナンス強化に注力しているかと言われれば、まだ全く不十分。日米欧各市場の極端なPBR格差にも表れている」

――逆に言えば、ガバナンス改善によって日本株の評価にはまだ伸びしろがあるということに。

「そう思う。ガバナンスとして最も適切なあるべき姿は、機関投資家と上場企業が双方向で適切な対話を行うことにある。仮に会社の取り組みが改善しないようなら、反対の議決権行使なども重要な手段になってくる。その点から言えば、機関投資家同士で対話を行う『協働エンゲージメント』でも日本は諸外国に後れを取っている。『共同保有』に該当しないかなどといった点をクリアにすべく、監督官庁による制度面からの対応も必要になりそうだ」(K)

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