高値更新を続けるエスペック(6859・P)に注目したい。日系中堅証券がそろって評価を引き上げている。5月15日に発表した2025年3月期決算と26年3月期予想を受けて、いちよし証券はフェアバリューを4,000円から4,500円に、丸三証券は目標株価を3,800円から4,400円に引き上げた。岩井コスモ証券は3,500円で新規にカバーを開始している。
エスペックは創業78年目を迎える環境試験機メーカー。国内シェア60%以上、世界シェア30%以上の、圧倒的なグローバルニッチトップ企業だ。
環境試験機は工業製品の性能や品質を確保するために使われる。温度や湿度、圧力などをコントロールして、地球上あるいは宇宙を含めたあらゆる環境を人工的に再現する。
例えばスマートフォンを家庭用冷蔵庫ほどのサイズの機械の中に置き、蒸し暑いジャングルから寒くて湿度の低い降雪地帯までを体験させて、耐久性を確認する。メーカー側はテストのためだけに世界各地に出向いたり季節が変わるのを待つ必要がなくなり、計画的に製品を開発できる。
次世代電池「開発」など先端技術を支える
あらゆる製品には技術開発や品質評価の過程で環境試験の実施が義務付けられている。試験は完成品のみならず部品、そして部品をある程度組み合わせたモジュール単位ごとに、何度も繰り返される。
環境試験機の用途は多岐にわたる。同社の売上高(24年度実績)を市場別にみると「電子部品・電子機器」が34%、「自動車」30%、「半導体」が11%となっており、自動車は前年の26%から拡大している。国内を中心にEV(電気自動車)・モバイルバッテリー向けのクライアント企業における投資が拡大したことが要因だ。
ちなみにEV自動車については需要の鈍化が聞かれるものの、「開発」には影響しない。特に国内の自動車関連メーカーは海外勢との差を埋めるべく積極的に投資を実施しており、さらに今後は自動運転に向けた取り組みが加速する見込み。「開発」が続く限りエスペックの需要は継続する。
25年2月にはEV電池専用の受託試験場「あいち次世代モビリティ・テストラボ」を新設した。背景には、愛知県が旗振り役の「あいち次世代バッテリー推進コンソーシアム」がある。トヨタやデンソーなど100を超える企業・団体が参加して24年12月に設立、電池産業の発展を目指すとしている。
エスペックは栃木県でバッテリーのテスト施設を既に稼働させていた。近年では受託開発を手掛けるまでにノウハウもたまっている。故意に爆発させるなど限界性をテストできる本施設は引き合いが多い。しかしテスト済みのバッテリーを陸路で数百キロメートル移送させるよりも愛知県内に新設することを強く望まれていた。
営業利益2桁増を維持 「減配なし」を明言
25年3月期は売上高672億8,800万円(前期比8.3%増)、営業利益75億2,600万円(同14.3%増)で着地した。26年3月期の売上高650億円、営業利益75億円を掲げた中期経営計画を1年前倒して達成した格好だ。
今期の予想については売上高を前期比1.1%増の680億円の横ばいとしたが、営業利益については同12.9%増の85億円とした。加えて28年3月期を最終年度とする新たな中期経営計画を発表しており、売上高700億円、営業利益105億円と、営業利益については引き続き年10%程度の伸長を見込む。これまでけん引してきたEVバッテリー向け需要がひと段落する代わりに、自動運転やAI半導体、米国で商用利用が拡大している衛星通信など新たな領域でカバーする。
同社は株主還元に積極的なことでも知られる。上場来、無配なし。今期の配当は年95円と4期連続の増配を計画する。加えて、中計の期間中は減配を行わず、自社株買いなどを機動的に行うことで3年間の累計で総還元性向50%以上とする方針も示している。