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インタビュー2025年10月9日

トップインタビュー 山本通産 郡司哲雄社長に聞く

用途拡大目指し化粧品向けに参入

次はスタンダード市場

「色と光の専門商社」として食品包装から建材・自動車まで幅広い分野で使用される顔料、染料などを手掛ける山本通産(385A)がTOKYO PRO Marketに上場して約3カ月が経過。同社の価値創造の源泉や今後の方向性などについて郡司哲雄社長に聞いた。

――専門商社とし価値創造を生み出してきた源泉はどこにありますか。
まず、当社は非常に歴史が長く(1918年に大阪市で創業)、欧州の大手化学メーカーの有力商品を扱ってきました。海外進出は77年、タイ現地法人を設立したのが始まりで、現在は7カ国、7法人です(社員は国内115名、海外50名)。特長は色材を中心に扱っていることで、少量多品種の製品を在庫販売できる点に強みがあります。

仕入れ先は欧州の大手化学メーカーが中心でしたが、エネルギーコストの急騰など収益環境の悪化を受け、撤退・事業売却などが相次でいます。代わって新規参入しているのが中国やインドのメーカーで、多くのサプライヤーが出てきました。

こうした中、われわれも「百貨店型」から「セレクトショップ」のような方向へやり方を変えてきました。例えば有機顔料は新製品は少ないけれど用途は拡大している。お客さまが新たに求めるスペックをメーカーに伝え、作ってもらいます。これができる商社は少ない。メーカーとの長年の信頼関係があるからこそだと思っています。

――これまで築き上げてきた重要な絆、出会いについて教えてください。
転職はしているのですが社会人になってからずっと顔料に携わってきました。有機顔料の発祥はドイツですが、ドイツの化学品はマイスター制度の下で師匠から弟子へと技術伝承がなされてきました。いまでもそういうカルチャーが業界に残っていて、人と人との関係がとても大切で、そこから企業間のつながりも生まれます。私はこの会社に入ってから中国に9年間駐在しました。顔料メーカーだけでも60ほどの工場を回り、12~13工場のサプライヤーを選定、いまでも定期的に足を運んでいます。

中国にはトップを表す「老板(ラオパン)」という言葉があります。「社長」というよりも「親方」「先生」「師匠」といったイメージで敬愛、親しみが込められた呼称です。現地の企業を訪ねても社長が社員から「老板」と呼ばれている会社は信頼できると感じます。当社でも現地法人の責任者には「老板と呼ばれるようになれ」と言っています。

――グローバルで活躍できる社風の醸成、人材の育成の秘訣がありましたら教えてください。
2010年ごろから海外研修制度をスタートしました。希望者から選定し海外拠点に派遣しています。当初は6カ月でしたが、現在は1年間です。当社の営業マンは理工系がほとんどで技術には強いけれど英語はちょっと…という人も多い。しかし、語学は慣れの問題ですし、派遣にあたってはテーマを選定して、新しいことに取り組んでもらっています。毎月のレポートでもなかなか立派なものが出てきます。

研修を終えた若い営業マンは海外に出ることが怖くなくなるようで、欧米の仕入れ先企業などに出張してもらっています。ちなみに、海外法人の顧客は8割がローカールユーザーで、日系企業は2割程度です。

――今後の成長に向けた戦略、感じている課題などを教えてください。
成長に向けては用途拡大を目指し中国と日本で化粧品向けへ参入、地域の拡大ということでインドネシアの市場を調査中です。そして一度撤退した「白」の取り扱い再開です。白は酸化チタンから作られますが、中国メーカーが開発した塩酸法という環境にやさしい製法の製品で差別化を図ります。また、当社では「色彩創造センター」を設け、カラーデザイナーがトレンドカラーを分析して、新しい色を生み出し、山本通産としてブランドオーナーメーカーに色を提案しています。原料を売るだけでなく、色にかかわるトータルソリューションをマーケットに提案、新しい事業として力を入れ、育てて行く方針です。次はスタンダード市場を目指します。

創業来初、年47円配当を実施して株主還元へ

――利用者を増やすためのマーケティング戦略は
インターネットのリスティング広告をやっている。あとは地道に事業所の近くにある行政や支援機関、クリニック、企業、学校を日常的に訪問するリレート活動を行っている。地域とのより良い関係性を構築して信頼される存在になることが重要だ。

――競合企業との差別化で工夫していることは
各種訓練は集団ではなく個別で行っている。学習塾でもきめ細かな個別塾が人気だが、福祉の世界でも一人一人の状況がまったく異なるので、ご利用者さまの目的に寄り添った個別支援を徹底している。事業としては集団支援の方が効率が良いが、それでは支援ではなくて指導になってしまう。どの業界もそうだと思うが、お客さまに対しては目先の効率性や利益ではなく誠心誠意に向き合う努力が必要である。当社の競争力の源泉は福祉のあたりまえを徹底できる実行力だ。また、就労移行支援、自立訓練(生活訓練)、就労定着支援、リワークなどの各事業を一気通貫の障害福祉サービスとしてドミナント(首都圏、中部、関西)展開することで大きなシナジーが発揮できている。

――事業の拡大、成長のためには人材の採用、育成が大事だ
社員の教育研修や福利厚生は充実していると自負している。新卒採用は去年49人、今年は52人が入社し、来年は60人前後となる見込みだ。ほぼ全員が大学・大学院卒で、資格取得者が多い。社会福祉に関心の高い若者が増えているのは頼もしい。

――業績は6期連続の増収増益と好調だが、配当政策は
業績についてはこれまでの活動がご利用者さまやご家族、各種支援機関からも評価されたということだと思う。

また株主還元については、今期(25年6月期)から初めて1株当たり年47円の配当を開始する予定だ。事業拡大に向けた内部留保を確保しながら、さらに来年からは配当性向40%を目安に引き上げ、継続的かつ安定的な配当を実施していく。