JIA 白岩直人社長が聞く
「採用版セールスフォース」を目指す
IPO(新規上場)社長とジャパンインベストメントアドバイザー・白岩直人社長によるトップ対談。今回の対談相手は3月18日上場のTalentX(330A・G)の鈴木貴史代表取締役社長。同社は採用マーケティングのプラットフォーム「Myシリーズ」をSaaSで提供している。採用マーケティングとは、企業が求職者に自社の魅力を伝えるためにマーケティングの手法を取り入れた新しい採用概念。「Myシリーズ」は、業界・企業規模問わず、簡単にリファラル(社員紹介)採用を導入、活性化できる「MyRefer」、過去の応募者データを蓄積しAIを活用して候補者へアプローチする「MyTalent」、ノーコードで自社の採用メディア・コンテンツを制作する「MyBrand」で構成され、低コストかつ高精度で人材獲得できることから導入企業が増加している。
――上場の背景。
「グローバルの採用マーケティングプラットフォーマーをベンチマークとし、将来的な世界から逆算して事業をつくってきた。日本では競合があまりないため、最初に上場してブランドポジションを確立することが重要と考え、採用の優位性と営業上の信頼感の向上を狙い上場した。満足できる公開価格ではなかったが、これを現実と受け止めた上で期待値を超え続けられるよう事業を運営していこうと思考を切り替えた」
――日本では競合はあまりないと。
「ツールごとにプレイヤーはいるが、AIやマーケティングを活用した採用DX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォームとして、リファラル採用、タレントプール採用、自社メディア採用ができ、さらに各々のデータやコンテンツがシームレスにつながっているコンパウンドSaaSとして展開しているのは我々だけとなっている」
――御社の企業価値を構成する上で最も重要な要素は。
「ブランドと人材。HR(ヒューマンリソース)市場が伸びる中、当社は採用マーケティングという新しい領域を作り、例えばリファラル採用をしたいとなれば当社に問い合わせいただける状態。一番初めに想起されるブランドポジションを作れているのは強み」
「人材については、『文化が戦略をつくる』ではないが、僕自身、インテリジェンス(現パーソルキャリア)という会社で若い人の力が組織を突き上げてイノベーションを起こし続ける好例を見てきた。インテリジェンスは、U―NEXTの宇野康秀さんが創業者であり、サイバーエージェントの藤田晋さんなど多数の起業家を輩出した会社であった。当社も人材やカルチャーがケイパビリティ(強み)となり、イノベーションを起こし続ける会社にしたい」
――企業価値の目標。
「企業価値の目標は開示を控えているが、早期にユニコーン企業を目指していきたい」
――企業価値を高めるための戦略。
「SaaSビジネスは展開余地が大きく、プラットフォームを作ることで中長期にわたり企業価値を伸ばしていく。一方でBtoBのSaaSは安定性があるものの急成長は難しい部分がある。SaaSの安定成長性と、ロールアップM&A(相対的に規模の小さい企業の連続買収)や採用コンサルティングなどを組み合わせることでより高い成長角度を目指す」
「今後目指す姿は『採用版セールスフォース』。営業領域はセールスフォースによりデータを資産として蓄積してマーケティングする世界観に変わった。しかし採用領域ではまだまだ人材紹介会社など外部に依存、応募データを破棄する構造がある。ここにマーケティングの力を投入して採用領域でイノベーションを起こしていく」
――株主還元の考え方。
「最近はグロース系企業も上場数年後に配当を開始する動きが見られる。僕らも遠からず対応したいと考えている。僕らはBtoBのSaaS企業のため、売上高成長率と営業利益率の両方を見る指標を重視。具体的には、売上高成長率と営業利益率を足して40%を超え続けるという『40%ルール』を大切にしている。これをモニタリングしながら、配当の可否を中期的に検討する方針」
――IR方針。
「ビジネスを認知、理解いただくには、お客さまと一緒に情報発信した方が市場を作っていけるため、〇〇会社がリファラル採用を導入した、といった分かりやすいIRも行っていきたい。中長期の姿を含め情報を提供しながら事業と株価を作っていきたい」
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鈴木貴史氏プロフィール
2012年にインテリジェンス(現、パーソルキャリア)入社。在職時に社内新規事業として「MyRefer」を事業化。2018年に「MyRefer」事業を軸にTalentXを設立し、これまで代表取締役社長を務める。
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白岩直人氏プロフィール
三和銀行(現、三菱UFJ銀行)を経て、45歳でジャパンインベストメントアドバイザーを創業し8年でマザーズ市場(当時)への上場を実現。金融商品の組成・販売などを中心に、主に金融ソリューション事業を展開し、日本全国に数千社の顧客基盤を有する。新規事業にも積極的に取り組み、2015年に日本証券新聞社を子会社化。
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≪取材後記≫
「採用マーケティング」という新たな領域を切り開き、「採用版セールスフォース」として世界を目指すという言葉から、鈴木社長の強い覚悟と自信が感じられた時間でした。
インテリジェンス在籍時の経験から「文化が戦略をつくる」という信念を抱いているという話は、単なるビジネスツール提供にとどまらない、人と組織の可能性を信じる強い想いを感じさせました。
SaaSの安定性とM&A、コンサルティングを組み合わせた堅実な成長戦略にて、新しい市場を創造する同社の挑戦に期待したいと思います。