JIA 白岩直人社長が聞く
障害を価値に変え未来にはばたく
IPO(新規上場)社長とジャパンインベストメントアドバイザー・白岩直人社長によるトップ対談。今回の対談相手は3月24日上場のミライロ(335A・G)の垣内俊哉代表取締役社長。同社はデジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・提供、ユニバーサルマナー研修・検定などを行う。
白岩 理念は『バリアバリュー』。
垣内 「障害を克服しよう、取り除こうではなく、障害を価値に変えていこう、その視点を生かして新しいものづくりを、新しいビジネスをという思いで事業展開している」
白岩 主力はデジタル障害者手帳「ミライロID」。
垣内 「障害者の身分証=障害者手帳は自治体ごとにフォーマットが異なり、これにまつわる不正や不便さがあったが、弊社がスマホ上で管理・提示できるようにしたことで事業者、障害者の双方から喜ばれている」
「ただ、民間企業が作ったアプリということで自治体の採用は途上。1,700超の自治体のうち、現在導入は340程度にとどまる。このプラットフォームを広げるにはパブリックカンパニーになる必要があると考え、上場した」
白岩 競合は。
垣内 「ミライロIDは競合はない。障害者手帳の電子化に関する特許を取得し、マイナポータルとの連携も民間企業第1号。そうしたことから優位性がある。ユニバーサルマナーは後発ながら、障害のある方々が講師を務めており、新しい雇用をつくっていることにも共感をいただき利用が広がっている」
白岩 大学在学中の2010年に設立した。
垣内 「起業は、私自身の骨の病気というバックボーンが一番大きい。浅はかなことだが、歩けないことを苦にして17歳の時に自ら命を絶とうとした。その後は歩けなくてもできることを増やしていこうと考え、さらに歩けないからできることもあるとの考えに行き着いたのが大学生の時だった」
「大きなきっかけはアルバイト。ホームページ制作会社の社長に命じられ営業をした。車椅子のため訪問件数は少なかったが、数カ月後に営業成績が一番に。理由は多くの人に覚えてもらえたから。その時に社長に『歩けないこと、車椅子に乗っていることに誇りを持て。多くの人に覚えてもらえているのは営業にとって大きな強みだ。障害があること、それに胸を張って生きろ』と言われ、涙がとまらなかった。そうか、取り除くだけじゃないのだ、新しい何かに変えていけるのだということを私自身感じることができたので、そういったことを世界中に広げていこうと起業した」
「それから気付けば15年もたった。上場で印象的だったのは打鐘。車椅子では届かないためステップとスロープを設置いただき、史上初めて車椅子で打鐘した。スロープとステップは今後も東証が保管するので、障害のある方が打鐘する日、それを描けるような未来をつくっていくことも私たちの使命なのではないかと感じた」
白岩 今後3~5年で企業価値をどのように高めていくのか。
垣内 「特にミライロIDとユニバーサルマナーを伸ばしたい。ミライロIDのユーザーは現在50万人、3~5年後には100万人に到達できるとみている。グローバル展開も進める。ユニバーサルマナーは既に30万人が受講いただいている。これを1000万人に引き上げたい」
「当社サービスは障害のある方々の就学就労、さらに消費を後押しするもので、経済循環にも貢献している。これからも障害者の声を拾い上げ、サービスを考えていく。私は見えますし、聞こえます。せいぜい歩けないくらい。一方で、ご高齢の方は見えづらくも聞こえづらくも歩きづらくもなってくるわけですから、障害者のニーズを統合した状態にあるのが高齢者と思う。障害者と向き合うことが超高齢化社会への備えになり、社会的弱者救済の文脈でなく、ビジネスとして必要という流れに変えていけたらと思っている」
白岩 社名に込めた思い。
垣内 「もともと障害児の家庭教育をしていた。その中でお父さん、お母さん、私の父母もそうでしたが、見通しは暗く、先に死ねないとみんなおっしゃる。でも完全に明るくはないとしても真っ暗ではないだろうと。それぞれがいろんな色を描けるように、いろいろな路を歩めるようにという思いから名付けた」
白岩 社名に込めた目標に着実に近づいているのでしょうか。
垣内 「道半ばだが、上場を機に知っていただいた方は多く、障害のあるお子さんがいる親御さんからのコンタクトも多い。少額だけど株を買いました、応援していますというお声もいただいている」
「この手応えのようなものを8年前にエクアドルで感じていた。当時大統領のモレノさんは車椅子に乗られていた。あるご縁からエクアドルへ行って、障害のある子ども、その保護者向けに講演することになったが、音響機器の不具合で音声は日本語のみ。それでも号泣しながらみんな聞いてくれた。後から聞いたところ、地球の裏側から車椅子に乗った、スーツを着た人がやってきて立派に仕事をしている姿を見て、自分の子どもの未来に希望が持てたとおっしゃっていたと。こうしたことを私たちが世界に示し続けることが、誰かの未来の道につながっていくのだと感じた。今回はグロース市場に上場したに過ぎないが、もっと事業を広げて、もっと世界に貢献し、しかるべきタイミングでプライムに上がっていかなければいけないと考えている」
白岩 最後に、IR(投資家向け広報)活動や株主還元の方針。
垣内 「配当は時期尚早と思うので予定していないが、株主優待は事業や描いているものを実感いただきやすいものを検討している。IRも積極的に行う。弊社のことを知っていただき、社会課題を認識いただき、その上でビジネスの共感の輪を広げていきたい」