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トップ記事2023年9月11日

中野晴啓氏、なかのアセット設立 セゾン投信退任の事情、新ファンドへの思い…

「長期投資が日本を良い方向へ変える」

セゾン投信会長を6月に不本意な形で退任した中野晴啓氏が今月、なかのアセットマネジメントを念願の東京・兜町に設立した。積立王子の愛称で個人投資家向けセミナーを全国各地で開催し、生活者による長期投資の重要性を熱く語った中野氏のファンは多い。業界に衝撃を与えた退任騒動から、今後のビジョンについてまで話を聞いた。(全2回の前編)

――親会社であるクレディセゾンの林野宏会長から退任を迫られたそうだが。

中野氏 最初から(退任は)決まったことと言われ、株主権の行使でやむを得なかった。従前から事業理念のベクトルの違いが埋められないほどになっていた。セゾン投信創業期におけるサポートには心より感謝している。だが、金融業界でフィデューシャリーデューティーなどの意識改革が起きている中、それに対する理解が得られなかった。例えば、顧客本位の理念にのっとっている楽天証券と提携しようとしたが反対された。(楽天カードはライバルなので)カード会社の経営トップとしての不寛容だったと思う。

――セゾン投信でクレディセゾン会員へのサービスを行えば違ったのではないか。

中野氏 僕らは長期投資、資産運用で最善の努力を尽くすのが本分で、カード会員向けサービスはメインの仕事ではない。そういう考えが林野氏に消極的と映ったのかもしれない。ポイントなどでガバッと顧客を取ろうとするのではなく、納得して長期投資に参加してもらわないと意味がない。

――会長退任後もセゾン投信に残る考えはなかったのか。

中野氏 自分が代表だからセゾン投信の価値を責任持って守れたが、それができなくなる。代表を代われということは会社を変えたいからであり、僕自身の目指す方向と違う方向に変わるのをサポートするのはあり得ない。

――退任後に、自ら運用会社を作ろうとした理由は。

中野氏 自分が育てた会社を取り上げられてしまった。そこで思い浮かべたのは僕自身を信じて長期投資で付いてきてくださった多くの顧客の顔だ。退任が公になった時に激励や次への期待の声を多く頂いた。これで自分はあっさりやめるわけにいかない、社会に必要とされていると実感して、その声に応えていきたいと割と早く決断した。特定の株主に経営支配されない資本構造、真に独立した運用会社を作ることを死守したい。また、セゾン投信が大きくなり人材を一気に増やしたので、顧客本位に対する一体的な理解が薄れてきた焦燥感があった。全てリセットして新しい会社を作る。価値観、理念を100%共有できる仲間だけで、組織を作り直したかった。株主はこれから増資で金融機関を中心に、まとまった出資をしてくれる個人の応援株主も合わせてやっていく。複数の金融機関に持っていただき、特定の株主に支配されないようにする。年明けぐらいにファンドを設定する目標で準備を進めている。

――来年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるタイミングと重なった。

中野氏 岸田内閣の資産所得倍増プランは、政治的な意思表示が初めてなされたこと。総理自ら資産運用立国を目指すと表明している。そのために、資産運用業に強い改革が政治からも促されている。新しい金融メカニズム作りが重要な国策になった。長期投資が日本社会を良い方向に変えられる構造変化につながると確信している。金融業界が消費者と価値観を共有するために汗をかき続けなければならない。(HS)

※後編は9月13日付に掲載

中野晴啓氏

1987年にクレディセゾン入社。2006年にセゾン投信を設立し、07年からファンドの運用を開始。社長、会長を歴任し、6月に退任。在任中に3ファンドの運用資産総額6,000億円以上まで育てた。