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インタビュー2022年9月21日

億り人Zeppy井村俊哉が聞く!!〈第8回〉井村氏×KHネオケム 濵本真矢取締役【前編】

エアコンは「家庭用」だけにあらず!!

冷凍機油原料に広がるブルーオーシャン

日本株の“出世頭”として知られるダイキン工業は、株価が直近10年で約10倍になった。そんなダイキン工業と同様の成長ストーリーが描けそうだと一部の投資家の間で話題に上っているのがKHネオケム(4189・プライム)だ。著名投資家の井村俊哉氏が取締役常務執行役員の濵本真矢氏に話を聞いた。

――御社が手掛ける「冷凍機油原料」の需要が拡大していると聞く。

エアコンは室内の熱い空気を取り込み、熱のみを外に運び出すことで部屋を涼しくている。この際、熱を運ぶ働きをする「冷媒」は室外機の中にあるコンプレッサーで圧縮されることでその機能を発揮しているが、この圧縮機を長期にわたって効率良く動かすために欠かせないのが「冷凍機油」と呼ばれるもの。その冷凍機油の性能を大きく左右する特殊な素材を、当社は作っている。

――冷凍機油ではなく“原料となる素材”を作っている?

その通りだ。冷凍機油に求められる性能は意外と多い。なぜなら定期交換が一般的な車のエンジンオイルと違い、エアコンは10年、15年とずっと使い続けるため。耐久性と安定性、冷媒との相性の良さといったことが絶対条件になる。こういった冷凍機油を作るために必須の原料を複数製造できるメーカーは当社を含めて世界でも2、3社しかなく、そして当社は世界シェアの半数程度を持っている。

――アジアでのさらなる普及など世界のエアコンの生産台数が引き続き増えるだろうことは想像がつく。まさにダイキン工業はそんなストーリーで株価がずっと上がってきた。さらに今後は「環境対応」による需要も広がるだろうと自分はイメージしているのだが。

冷媒そのものが進化している。かつて使われていた特定フロン(CFC、HCFC)がオゾン層を破壊すると禁止され、代わりに2000年前後からR410Aなどの代替フロン (HFC)が使われるようになった。しかし今度は地球温暖化を促進してしまうことが分かった。
温暖化への影響度合いを示すGWP(地球温暖化係数)でいうと、それまで使われていたR22の1810に対してR410Aは2090と大きくなってしまった。そこでGWPが675と、現状ではもっとも環境負荷の小さいR32への切り替えが進んでいる。

――ダイキン工業が今まさに世界で展開している冷媒だ。法規制など後押しもあるのか?

エアコンの冷媒については、2019年1月に発効されたモントリオール議定書のキガリ改正の中でHCFC全廃とHFC削減のスケジュールが定められている。国によって違うが、日本を含む先進国についてはHFCの生産量と消費量を34年までに、CO2換算で基準値(2011~13年の各年の消費量等の算出平均値)に対し80%削減することが義務付けられている。この規制により、当面はR32などのGWPが低い冷媒を用いたエアコン需要がさらに伸長すると予想される。

――最終需要地のメーンと思われる中国でも普及は進みそうか。現状では環境への意識が高いとは思えないのだが。

遅れ気味だがしっかり対応している。コスト的観点からエネルギー削減への意識が高いことも背景にあるだろう。エアコンについてはエネルギー効率を国家標準として設け、達しないものについては20年7月からは生産が禁止され、昨年7月からは販売も禁止されている。

――最新の冷媒R32が普及しているということ?

中国での国家標準は冷媒について言及しているわけではない。ただ、基準を満たす最新のエアコンにはR32といった低GWP冷媒が使用されることが多い。

――冷媒の進化は温暖化防止だけでなく節電あるいはエネルギー効率の向上にもつながるのか。

冷媒の進化だけで飛躍的に向上するということはない。しかし、R32が採用されるような新しいエアコンは当然コンプレッサーなどの機能が向上しているので、エネルギー効率は必然的に向上する。

――御社の冷凍機油原料はダイキン工業の製品を含めて、世界のエアコン生産台数と連動して売れると見込んでいる。このあたりの成長率をどの程度とみているか?

世界のエアコン販売台数は年平均6%程度の成長と想定している。環境対応のみならず特にアジアでは所得・生活水準の向上による需要伸長も期待される。

――技術革新という面でいくと、この先はエアコンがコンパクト化して冷凍機油の量が減る、ということは?

ないだろう。むしろ家庭用エアコン「以外」の部分での新規需要が生まれ始めている。24年度をゴールとする現行の中期経営計画には大きな収益貢献は見込んでいないものの「カーエアコン」はいわゆるブルーオーシャン。電気自動車(EV)についてはまったくの新領域だ。従来のガソリン車では暖房にエンジンの排熱が使われていたが、これが使えないEVには家庭用と同じ仕組みのエアコンが必要になる。まさに高機能の冷凍機油原料の出番。

――EVの普及とともに冷凍機油原料の需要が拡大する可能性があるとは、おもしろい!! 実績は?

当社製品は冷凍機油メーカーを通じて製品に組み入れられているため詳細は不明だが、自動車メーカー側が明記している使用冷媒を見ると当社製品の採用有無はおおよそ判断がつく。

――そして御社は家庭用エアコンの分野で世界シェア半数とのこと。自動車も必然的に…。

世界的にEVへのシフトが急速に進んでおり、2030年の世界におけるEV保有台数は、21年の20倍以上へ拡大するとの予測もある。これは当社が想定する6%成長の「外」の話で、実はもう一つ、同様にプラスアルファを見込んでいる領域として「ヒートポンプ式エアコン」がある。

――非常に注目している領域だ。足元ではロシアによる揺さぶりもあってエネルギー価格が高騰、欧州では既に工場停止も発生しているが、冬に向かって電力不足はさらに深刻化を増すとみられている。

特に環境意識の高い欧州では、これまで使っていた化石燃料由来の熱源を、大気中の熱を活用したヒートポンプ式へ切り替えようという動きが強まっている。この切り替えにより当社の冷凍機油原料が活躍するようになる。

――ちなみに冷凍機油の世界双璧がドイツの企業だと思うが、ドイツは欧州の中でもとりわけエネルギー事情が厳しい。工場が停止した場合は御社に影響はあるか。

事情は異なるが、コロナ禍で欧州の物流がひっ迫してドイツの競合から中国への輸出に支障が出たときに、当社への引き合いがものすごく強まった。家庭用エアコンの7割程度が中国で生産されており、立地的に近い当社への出荷依頼が集中して価格も高水準となった。

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しかしながら同社には「懸念している点が…」と続ける井村氏。さらなる深堀りをまとめた「後編」は9月26日付に掲載予定です。

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