新日本科学(2395・P)が一時12.3%高。1日午前9時、米国子会社サツマ・ファーマシューティカルズの経鼻偏頭痛治療薬「アヅミ」が米食品医薬品局(FDA)から販売承認を取得したとの発表を受けたものだ。同社にとってこれがどんな意味を持つのか…。新日本科学の岩田俊幸常務執行役員IR広報統括部長(写真)と言えば、かつて立花、みずほ、SBI各証券でバイオ担当アナリストを務め、ヘリオス、ペプチドリームなども渡り歩いた“日本バイオの伝道師”として知られる存在。新日本科学の株価が2021年6月30日の岩田氏着任リリースを発行を機に、同日の819円から1年余りで3倍高となったことは今も語り草だ。今回の新薬承認について同氏に緊急インタビューを試みた。
――日本のバイオベンチャーの米国での新薬承認はこれが初めてとか。
「FDAの審査終了目標日(米国時間で4月30日)を前にバイオの団体トップや業界関係者、証券アナリストにも確認したが、製薬会社ではなくベンチャーとしては過去になかったようだ。昨年7月、当時の岸田文雄首相は製薬会社、創薬ベンチャーやわれわれCRO(医薬品開発業務受託機関)など内外43社を招いた『創薬エコシステムサミット』で医薬品を日本の基幹産業に位置付け、ベンチャー強化などを呼びかけているのだが…」
――ともあれ第1弾となれたのは喜ばしい。ただ、その岸田首相も既に退任してしまった。
「石破茂首相の政権構想もこれを引き継ぐとしており、政府としての姿勢は変わらないだろう」
――偏頭痛薬の「アヅミ」はどんな薬なのか。
「米国の偏頭痛患者は約4,000万人、全人口の約12%と推測され、20歳~40歳代の働く女性が中心だ。軽い頭痛では済まずに、光が当たるだけ、音がするだけで強い頭痛や吐き気を感じる中等度から重度の患者はかなり多く、こうした層が対象となる。アヅミの有効成分は、偏頭痛の急性期治療薬として長年臨床で使用され、安全性と有効性の確認されているジヒドロエルゴタミンだ」
――既存薬と同じでは新規性に乏しいのでは。
「そもそも偏頭痛薬自体の歴史は長く、『注射剤』なら1946年から販売されている」
――「鼻からシュッシュ」の経鼻薬が画期的?
「鼻で吸うスプレー剤も97年から出ている」
――新規性は???
「既存のスプレー剤は液体のため、鼻から吸ってもどんどん喉に落ちていく。2年前にファイザーが発売した偏頭痛の新薬では味覚障害の発生が20%に及んだ。アヅミは初の粉体製剤(パウダー)を実現したため、鼻粘膜での薬物の滞留、吸収が容易になり、副作用もごく低く抑えられる。注射剤に比べて投与が容易で安全性が高く、手のひらサイズの携帯性でも優位。頭痛が始まったら片方の鼻にプッシュするだけの使い勝手の良さで、米国で約3万5,000人の偏頭痛専門医が治療薬を処方する際の有望な選択肢の1つになるだろう」
――そういえば先日、パーキンソン病についても「点鼻薬」の臨床試験結果を開示していた。
「発想は同じだ。既に安全性や有効性が実証され、薬剤としての特許の切れた成分に、われわれの粉体製剤技術を組み合わせることで有望新薬へと生まれ変わらせる『プラットフォーム技術』と考えている。粉体のため温度管理が不要なことも応用範囲を広げている」
――第1弾アヅミの先行きの収益貢献などは。
「販売パートナーとの交渉を急いで年内販売を目指す。将来的なロイヤリティ収入は年数十億円のポテンシャルがある」
――岩田さん就任後に急騰した株価もここ2年で急落してしまったが。
「アヅミを開発した米サツマ社の100%子会社化を発表した2年前が株価面での転機となった。本業のCRO事業で利益もシェアも伸びているのに『なぜそんなことをするのか』『成長シナリオに合わない』などとレポートに書かれもした。とはいえ、もともと“一本足打法”でいくつもりはなく、そもそもサツマは当社で作った会社だ。先行投資負担による利益圧迫もいずれ回収期へと転じよう。共通の顧客を通じた本業との相乗効果も期待されてくる」(K)