カギは人材 「来たれ“飛び出た社員”」
共同印刷(7914・P)が逆行高。再び19年ぶりの高値を付けてきた。同社の上昇率は前年度末から3割近くに達している。昨年来、配当方針へのDOE(株主資本配当率)導入や優待拡充、1対4株式分割といった株主還元施策を矢継ぎ早に進め、5月に好決算とともに発表した意欲的な長期戦略なども評価を得ているようだ。とはいえ、ネット社会の深化が急速に進む昨今、「印刷」の持つ古いイメージは否めない。同社の現状と先行きをどう見るべきなのか。12年ぶりのトップ交代で4月に就任したばかりの大橋輝臣社長(写真)に話を聞いた。
――新聞、雑誌など紙媒体への逆風は強まるばかり。厳しい環境下での社長就任となったが…。
「紙の需要は間違いなく急速に縮小している。欧州では書籍に復調も見られるし、このまま市場が消失するわけではないが、減少傾向は止まらないだろう。ただし、既存の印刷も含む『情報系事業』と『生活・産業資材系事業』の比重は、前任の藤森康彰社長時代に4対1程度から2対1程度に低下するなど対応も進んでいる」
――生活・産業資材系事業とはどんなものか。
「紙以外にプラスチックなどを素材として主にパッケージ向けの製品を提供している。『塗る』『貼る』『混ぜる』『成形する』といった技術を応用した各種製品群を扱っており、例えば歯磨き粉のラミネートチューブでは当社が国内トップシェアだ。新しい素材開発も行っており、最近の例では、『赤外線防透け生地』をスポーツメーカーのミズノ、機能性材料に精通する住友金属鉱山、当社の3社で共同開発した。これは国際大会の日本代表のユニフォームにも採用された」
――他にもこうした興味深い例はあるのか。
「例えば、主に医薬品向けに吸湿機能を持つ包材を提供している。これなら乾燥剤を入れる必要がない」
――意外感やインパクトがある。もっとアピールすればいいのに…。
「昔から裏方に徹するという意識が強く、アピールは得意ではないかもしれない」
――何でも少し変わったクレジットカード事業も展開しているとか。
「法人向けプリペイド式のクレジットカードだ。コーポレートカードは通常、上級職にしか渡さないが、プリペイド式なら若い人にも渡すことができる。旅行会社の添乗員や学習塾などで利用が広がっている」
――アイディアはいいが、本業とはかなり遠いのでは…。
「実は本業にも近い。もともとクレジットカード会社の裏方は、その多くを印刷会社が担ってきた。このプリペイド式クレジットカード事業もそこを出発点としている。前述した『情報系事業』の中でも紙への印刷の比重は次第に低下しつつある。伸びているのはBPO、つまり事務処理代行だ。苦情処理なども請け負う。自治体の給付金業務や金融機関のマイナンバー収集業務、生命保険の受け付け業務などが代表的なもの。入り口から出口まで請け負っている範囲は広い」
――向こう10年の長期戦略は売上高1,500億円(前3月期比1.5倍)、営業利益120億円(同5倍強)以上を目指す野心的な計画で、情報系と生活・産業資材系の1対1も掲げている。
「年度ごとの積み上げ方式で作った3カ年の中期計画とは異なり、長期戦略ではまずゴールを設定した。1,500億円を確実に達成するためには2,000億円を狙う姿勢が重要だ」
「情報系は現在の約600億円から750億円まで25%増を目指すが、印刷の減少分を補う必要がある。BPOのほか、コンテンツ事業も強化する。デジタル指向を強める出版社とはもはや『持ちつ持たれつの関係』は薄れており、“境界線”も曖昧になってきた。現在、約300億円の生活・産業資材は倍増以上が必要。東南アジア中心に海外に活路を求めることになる」
――達成のカギは。
「人材育成に尽きる。意欲のある若い人、優秀な人を伸ばす事業に振り向けていきたい。特に当社の研究開発部門は、現状は既存事業に関する業務の割合が多くなってしまっている。ここに対してきちんと方針を出して、新しい分野で芽を出すものをたくさん育てていきたい」
「古くからの友人に、若い頃から起業を目指してきたスタートアップの社長がいる。晴海や幕張の展示場に足繁く通い、最も“熱量”を感じる市場に目を付け、大成功を収めた。当社からもこうした、いろいろなことに挑戦してやり切る、いい意味で“飛び出た”社員が出てくることを待ち望んでおり、既に何人か見つけつつある」(K)