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インタビュー2025年9月12日

出光興産 酒井則明社長に聞く “トランプ時代”も「バランス重視」で成長継続

PBR水準は常に意識

出光興産(5019・P)が出直り歩調にある。「7年ぶりの高値水準」となった3月高値から一転、4月初めのトランプショックに見舞われたが、押し幅半値戻しの水準(994.8円)を超えてきた。その4月、「7年ぶりのトップ交代」として“嵐”の渦中で就任したのが酒井則明社長(写真)だ。「来年3月までに策定、公表したい」とする新中期経営計画に盛り込むべく、現在、成長持続に向けた各事業の総点検を進めている。同社の今後のかじ取りなど酒井社長に話を聞いた。

――今月末で就任半年ということになるが。

「CFO(最高財務責任者)時代から、経営全般を見てきたはずだが、いざ就任してみると業務範囲は想像以上に広かったという印象だ。ただ、当社が身を置くエネルギー産業は、先のコロナ禍の際もそうだったが、他の業界のように“需要消滅”することがなく、ある意味で恵まれている。ここ半年はトランプ大統領発言に惑わされる日々だが、前提を置いて先を読んでみても始まらない。いかに柔軟に対応できるか。我々の使命である『安定供給責任』を果たすため、大きな変化への対応を誤らないことを心掛けている」

――社長として、これまでの経営路線から変えてみたいことと、守っていきたいことは。

「守りたいのは創業者の理念である『人が中心の経営』だ。小説や映画の『海賊と呼ばれた男』のモデルとして知られる出光佐三氏は苦境下にあって1人の解雇者も出さず、戦時下には出征社員の家族に給料を払い続けた。時代の流れとともに、経営者と従業員が家族のような関係を築くことは少なくなったが、当社の離職率は長期間にわたり低水準を維持している。『人』を経営の中軸に据え、個性が異なる社員がいきいきと安心して働けるよう環境を整えているからこそ、昭和シェルとの統合も成功したのではないか。現在も賃上げ率など各種待遇面では業界他社の水準を常に意識している」

――変えたいことは。

「カーボンニュートラルの進め方にもう少しバランスを重視したい。現中期計画では2030年にグループ収益に占める化石燃料の比重を50%未満に抑える指針を示したが、その後の情勢変化から旗振り役の欧州もスタンスを変えてきている。ゴールとなる50年の絵姿は変わらなくとも、そこに至るまでのスピード感が変わりつつある。もちろん、こちらの都合で再生可能エネルギーなどの供給を抑え込むつもりは毛頭ないが、かといって従来方針のまま突っ走って、再び重要性の増した燃料油の供給を疎かにすることは許されない。エネルギーに関しては我々が需要を作り出すことはできず、あくまでも世の中の流れや需要の行方を慎重に見極めるバランス感覚がこれまで以上に重要となろう」

――となると、期待の新分野である次世代電池やSAF(持続可能な航空燃料)、アンモニア、eメタノールの行方は。

「まずは、トヨタ自動車さんと共同で推進中のリチウム全固体電池(電解質)の事業化は計画どおり進んでいる。他の事業も業界の垣根を越えた様々なパートナーシップのもとで研究開発は順調に進展している」

――ちなみに、これまでの有機ELなども含めて、本業以外の部分での様々な新技術分野で先行してきた。もともと“進取の気風”があるのか。

「当社では従来から幅広い基礎研究が行われ、その過程で派生した技術を他分野につなげようとする研究者も多かった。現在、個々の研究者に聞くと、『もっと投資して欲しい』など現状に満足していない。そこで、27年度に部門ごとに分散していた研究員を一堂に集めて千葉に統合研究所を新設する。取引先や国内外の学術研究者の方も招いて、研究のさらなるレベルアップにつなげていきたい」

――今後の日本経済の行方についても一言。

「やはり人口減少社会になるが、決して悲観はしていない。当社創業者の言葉に『逆境にいて楽観せよ』がある。前向きに状況を打開せよという意味だ。DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIによる自動化と効率化を進め、より付加価値の高い業務に人が集中できるよう、取り組んでいる。また、国内外でM&Aが活発化しているが、当社も新たな事業機会の創出を求めて検討していく。

――最後に、PBR0.7倍程度の市場評価をどう受け止めているのか。

「PBRは常に意識しており、現在の水準には忸怩(じくじ)たる思いでいる。資本効率や株主還元は最重要の経営課題と考えている。株主専用WEBサイト『いでみつコネクト』などを通じて、個人株主のみなさまにはこれまで以上に当社のことを理解してもらい、応援してもらえるように務めていきたい」(K)