矯正歯科技工物の製造販売を手掛けるアソインターナショナル(9340・S)は、前6月期決算で4期ぶりに過去最高益を更新。今期も増収増益を見込む。近年は審美意識の高まりや未病改善への取り組みを背景に歯科矯正治療のニーズが高まっており、同社もその追い風を受けている。足元では北米に加えユーロ圏の受注強化に動くなど、海外事業の拡大を加速している。現状と今後の戦略を阿曽敏正代表取締役社長(写真)に聞いた。
――今2026年6月期の戦略について。
海外は引き続き米国を伸ばしていく。9月後半から10月にかけてまたボストンに行ってくるが、現地の大学を巡り日本の技術を広めてきた成果もあって問い合わせは非常に多い。米国有力企業との業務提携なども考えている。国内については引き続きデジタル化を進め、一段の生産性向上と競争力強化を図る。
――国内では新製品の形状記憶アライナーの販売拡大が期待される。
アライナーは2週間ほど使用すると変形してきてしまう。従来は都度作り直していた。新製品はお湯に入れると形が元に戻るうえ、矯正力は維持される。また、LuxCreo社3Dプリンターでダイレクトで製造できるので、模型を起こす必要がない。メーカーに外注すると1カ月ほどかかるところを、口腔内スキャンをしたあとすぐに院内で製作できる。最近はこうした歯科医院内で作製するインハウスアライナーがはやっており、非常に魅力ある商品ということで注目されている。
――7月の訪欧トップ外交の手応えは。
ドイツ、フランス、オランダ、イタリアの4カ国に赴いた。フランスでは遠隔で治療の進行状況を確認できるデンタルモニタリング(歯科遠隔診療)を日本で販売するアライアンス、オランダではヨーロッパ向け装置を円滑に輸送するための業務提携や地元歯科技工所からの受注など、各国でそれぞれ実りのある出張だった。
――成長投資の進捗を聞きたい。
フィリピン・マニラの製造拠点は400名体制への拡大を目指す中で、現在は310名ほど。トレーニングをして徐々に人数を増やしながら、人材を厳選している。設備投資については、デジタル製品増産のためのメタルプリンターやワイヤーベンディングマシンなどで5,000万円を計画しており、生産性の向上が期待される。
――北米に続きユーロ圏の拡大に乗り出すなど、グローバル展開が順調に進んでいる。製造拠点をマニラ以外に拡大する考えは。
世界の仕事は全てマニラでと考えている。その理由はまず英語圏であること、そして当社は国際ロジスティクス大手のDHLジャパンと包括的な物流サービスの契約を結んでいるので、マニラ経由でスムーズな国際物流網を構築できている。無駄な工場を2カ所も3カ所もコントロールするより、今の拠点を500人、1,000人体制に拡大する方がいい。
――為替や関税の影響はどうか。
為替については、去年の一番厳しい状況から乗り越えた感はある。米関税政策の影響はゼロとは言えないが、先生方に多少のコスト負担でご理解をいただけたこと、そして当社とDHLの企業努力もあって最小限に抑えられている。
――開示資料からは、株価意識の高さもうかがえる。
資本コストや株価を意識した経営を重視しており、特にROE(自己資本利益率)改善の観点ではM&Aも有力な選択肢のひとつと考えている。実は5月に15億円規模のM&Aに挑む機会があった。総資産30億円の当社にとっては大きな決断であり、結果として相手が求めるシナジーの点でコンペには負けてしまったが、仮にこれを全額借り入れで実施していた場合、財務レバレッジが効いてROEの向上が見込めただろう。M&A以外にも、資本面を含めたアライアンスが今後複数社出てくると思う。
余剰資金は還元する方針だ。今期は年間配当24円(配当性向46.6%)を計画しているが、業績予想を上回る見通しが立った時点で増配する。安定的かつ継続的な配当を実施したいので慎重に検討していくものの、理想は毎半期で1円ずつ増配できればと考えている。(SS)