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銘柄・相場情報2025年12月10日

【速報版】企業研究 第一工業製薬(4461・東P) 構造改革推進し業績V字回復

京都で1909年に創業した第一工業製薬は繊維産業とともにせっけん・洗剤をはじめとする界面活性剤で日本の高度成長を支えた。近年は市況低迷による販売数量の減少、原油・ナフサ価格の高騰による原材料の値上がりや製品の価格転嫁の遅れなど収益を圧迫したが、デジタル社会・脱炭素社会に不可欠な製品の研究開発に注力したことで業績はV字回復を遂げた。配当や優待といった株主還元にも積極的な同社の戦略を深堀りしていく。

――「電子・情報」「環境・エネルギー」が牽引役
IT(情報通信)・電子材料向け製品を手掛ける「電子・情報」部門と、リチウムイオン電池(LiB)用材料など「環境・エネルギー」部門の二本柱が業績の牽引役だ。

「電子・情報」ではITや電子部品の付加価値を高める高機能材料の需要が拡大している。次世代の高速通信向けに高速・大容量・低遅延の通信を実現する性能が求められる中、同社は低誘電性能を持つ熱架橋性樹脂や次世代の熱硬化性樹脂を開発。AIや大規模なデータ処理の普及によって、ハイエンドサーバなどの需要が大きく伸長する局面において、顧客の要求するカスタマイズ製品も提供している。

「環境・エネルギー」では高性能のLiB向け負極用水系複合接着剤(バインダー)が大きく伸長。界面活性剤の技術を応用したバインダーは、シリコン系負極材料の充放電時の膨張や収縮に伴う電池性能の低下を効果的に抑制できるため、民生用電子機器向けLiBの需要拡大への対応を迫られている。当面は既存の滋賀工場で生産能力を高めるほか、四日市工場霞地区に新たな設備投資を行うと決定した。設備投資額は約30億円で、2027年3月ごろの稼働を予定しており、生産体制の強化と供給能力の向上を目的とし、大手電池メーカーなどの顧客ニーズに応じる考えだ。

――7割増益目指す中期経営計画を策定
今年1月には29年度を最終年度とする中期経営計画「SMART 2030」を策定した。情報通信関連、半導体周辺、電池用材料などの高機能材料の開発および販売の推進強化が狙いで、30年3月期の業績目標として売上高1,000億円(25年3月期実績は733億円)、営業利益100億円(同53億5,100万円)の目標を掲げている。

具体的には既存設備の更新・増強や新規開発の案件強化に向け、5年間で計300億円以上の設備投資を計画する。中でも、次世代半導体の高機能性洗浄成分、EV(電気自動車)および先端デバイス向け電池材料、次世代高速通信向け低誘電材料など高付加価値製品の研究開発と生産能力増強を加速。売上高と営業利益は「電子・情報」で400億円・50億円、「環境・エネルギー」では300億円・30億円に引き上げる。また、「ライフ・ウェルネス」は健康社会に貢献する材料、「コア・マテリアル」では、当社のコア技術である界面活性剤の技術を活用した製品を開発する。

――中計目標の前倒し達成が視野に
足元の業績回復には目を見張る。10月30日には26年3月期の売上高予想を800億円に据え置いた上で、営業利益予想は68億円から82億円に上方修正した。業績が低迷していた23年3月期実績比では売上高が23%増、営業利益では6.9倍に拡大し、いずれも過去最高を更新する見通しだ。

営業利益ベースは、中計で掲げる100億円の目標に対する進捗率が80%を超過。今後さらに高付加価値品へのシフトや研究開発のスピードアップを推進することで、中計目標の前倒し達成も十分に視野に入ってきた。業績が上振れ気味に推移していることに関し山路直貴社長からは、「中計の目標を一日でも早く達成できるなら、5年という期間を待つ必要はない、計画を前倒しで実現するように」との指示が出ているという。

――配当、優待など株主還元も強化
株主還元は今後さらに強化していく。業績低迷により24年3月期には1株当たり65円への減配を強いられたが、前期は100円、今期計画では140円に増配する。中計最終年度の配当性向は40%以上を目標とするなど、利益成長に合わせて積極的に還元する考えだ。

株主優待では従来は同社の健康食品を中心に贈呈していたが、現在は持株数に応じて「プレミアム優待倶楽部」のポイントを付与し、約4,000種類の商品から選択可能としている。

【記者の視点】
山路社長はもともと同社生え抜きの研究員。22年9月の日本証券新聞社の取材に応じた際には、値上げに腐心している内情を明かしてくれた一方、研究開発の費用は惜しみなく投じたことが現在の経営基盤の土台となった。株価は実に35年ぶり高値圏に到達したとはいえ、PERなどバリュエーション面の割高感は乏しい。中長期の成長性を視野に入れながら買いのタイミングを探っていきたい。

※速報版は最終的な校了前の紙面記事です。今後、修正等が入る場合があります。

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