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特報2015年3月3日

☆特報 大塚家具の御家騒動 関心高まる3月27日株主総会

このところ大塚家具(8186)の創業家一族の経営権争いが白熱、テレビが熱心に報道している。

お金持ちが骨肉の争いを演じているとなったら、「話題性」は倍増するからだろうが、もしも娘の久美子氏があれだけの美ぼうを兼ね備えた才女ではなかったら、ここまでテレビは飛びつかなかったに違いない。

メディアのみならず、市場もこの親子げんかには大いに注目している。もともと2月26日の久美子氏側の会見は、中期経営計画発表のために予告されていたものだったが、この会見にぶつける形で前日の25日に父親の大塚勝久氏が会見を開き、翌26日は朝から株価が動いた。

26日は寄り付きからいきなりストップ高。一気に前日比300円高の1,405円に張り付いた。ただしこのストップ高は、勝久氏の会見効果ではなく、25日17時に公表された配当予想の影響だろう。



大塚家具は長らく15円の安定配当を続けていたが、2003年以降は毎年業績に関係なく5円ずつの増配を繰り返し、勝久氏の社長最終年度となった08年12月期に40円に到達している。

勝久氏が会長に就任し、独立して会社を経営していた久美子氏を呼び戻して社長に据えたのが09年3月の定時株主総会時。久美子氏の社長就任と同時に、配当は再び安定配当に戻り、14年12月期まで40円に据え置かれて来た。

それを一気に80円に引き上げる方針を明かにしたのが2月25日夕刻なので、翌日からの株価高騰の材料は間違いなくこの増配発表だ。

株価は翌日以降も上昇を続けており、本稿を執筆している3月3日12時30分時点では2,317円。わずか1週間弱で株価は倍の値段にハネ上がったことになる。

会員制を維持し、自分が築き上げた従来の販売方法の継続を主張する勝久氏と、販売方法の変更を主張する久美子氏の言い分は、テレビでさんざん報道されているので、ここではもう一つの主張、過去の業績について分析してみたい。勝久氏は「久美子が社長になってから業績悪化した」と言っているし、久美子氏は久美子氏で、「業績を立て直したのは自分。数字を見てもらえば分かる」と言っているからだ。

まずはいつものように下の業績表をご覧いただきたい。久美子氏が社長に就任する直前の08年12月期は最終赤字を計上している。このときの赤字原因は明らかに減収だ。

08年と言えばこの年の9月にリーマン・ショックが勃発している。ただ、不動産バブル崩壊は07年の年明けに起きていて、08年のマンション発売戸数はバブル崩壊後の15年間で最低の水準になった。

大塚家具は、新居に入居する際に、家具を一挙にまとめ買いする顧客を主要ターゲットにして来たので、住宅の新築戸数は販売数量に多大な影響を及ぼす。売上高が前年の727億円から一気に668億円に減り、営業利益は46億円から12億円へと、およそ4分の1に。収益力が落ちたため店舗の減損処理も余儀なくされ、2億2,000万円の減損が発生。さらに投資有価証券の評価損7億4,500万円も響き、結局特損は9億6,700万円に。この影響で最終は赤字になった。

翌09年12月期は久美子氏の社長就任初年度だが、この期は営業損益段階から赤字。売上高はさらに落ち込んで579億円に。この年はリーマン・ショックの影響を通年で受けているので、どこの企業も大きく業績が落ち込んだ年なので、就任初年度の久美子社長の手腕のせいと言うには説得力がない。

翌10年12月期営業赤字が続いたものの、不採算店の閉鎖効果が出始めて赤字幅は大幅に圧縮され、翌11年12月期は黒字に復帰している。

13年12月期は親子げんかの元になった、会員制の見直しと入りやすさを狙った店舗のリニューアル、リニューアル後の宣伝・販促などで費用が先行し、営業減益になっている。

それでは終わったばかりの14年12月期はというと、再び営業赤字に逆戻りだ。

上期は期初予想の売上高295億円、営業利益5億3,900万円、当期純利益3億7,900万円に対し、それぞれ298億5,600万円、7億4,300万円、7億4,200万円と期初予想を上回って着地している。

にもかかわらず通期の着地が期初予想を大幅に下回り、挙げ句に営業損益段階から赤字という結果に終わった。故に久美子氏は、7月に社長を解任されたので、後半の業績悪化は自分を解任したせいだと主張している。

ただ、14年12月期は第1四半期に消費増税前の駆け込み特需という一大イベントがあり、第2四半期以降にその反動減で、想定以上に大きく収入が減った企業は枚挙にいとまがない。久美子氏が解任にならなかったら、下期の結果が変わっていたのかどうかとなると、「たら・れば」の話になってしまう。

今のところ、中期経営計画を公表しているのは久美子氏側だけ。機関投資家が票を投じやすいのは久美子氏だが、80円の配当はいくらなんでも無謀だ。一株純益は07年12月期の144円を最後に、80円を上回った年はなく、15年12月期予想一株純益は4円86銭。人気取りのための一時的なアメのたぐいと言われても仕方ないだろう。果たしてほかの株主はどちらに軍配を上げるのか。注目の株主総会は3月27日金曜日に開催される。



著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)


[本紙3月14日付12面]

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