13日上場し、初値が公開価格の2倍と高騰したアクセルスペースHD(402A・G)は14日もストップ高(100円高の774円)。人気がある宇宙銘柄とはいえ赤字続きだが、同日の上場会見で、折原大吾取締役CFOが黒字化の時期は明言しなかったものの、来期に予定されている次世代衛星7機の打ち上げが大きなドライバーになり、収益貢献への寄与が期待されると発言。さらに、中村友哉代表取締役CEO(写真)が、明確な成長戦略を説明したことが好材料になったといえる。会見で2人が語った内容のポイントは次の通り。
赤字でも順調に成長
独自の超小型衛星技術を用いたビジネスを展開している。創業した2008年にウェザーニューズ(4825・P)の衛星を受託して事業をスタートし、これまで11機の人工衛星の開発、打ち上げ、運用した実績がある。スタートアップでJAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星を開発したのは当社が初めて。現在は赤字が続いているが、業績自体は順調に成長している。
2事業運営が世界的な強み
事業は大きく分けて2つ。「AxelLiner」(アクセルライナー)は人工衛星の開発事業。単に開発するだけでなく、政府からの許認可取得や周波数調整など非技術的なことも含め、ワンストップで提供する。17年間小型衛星をより安く、早く作る技術を築き上げてきた。顧客は政府系の案件中心で、今後、民間案件の獲得を狙っていきたい。もう1つが「AxelGlobe」(アクセルグローブ)で、当社が打ち上げた複数の地球観測衛星「GRUS」(グルース)から得られた光学画像や、画像を使ったソリューションを提供する事業。22年5月期に5機体制になってから業績が伸びている。顧客は民間企業が過半数を占め、3割が海外から。2つの事業を両方運営しているのは世界的に見ても非常にユニークで、これを強みとして成長していきたい。
日本で唯一中分解能画像を提供
アクセルグローブは光学データを提供しており、カラーで非常に扱いやすくいろいろな情報を抽出しやすい特徴がある。国内の上場他社が手掛けるSAR衛星に比べて消費電力も少なく、低コスト。光学画像は中分解能、高分解能、超高分解能に分かれるが、現在、中分解能に取り組んでいる。非常に広いエリアを撮影できるのが特徴。中分解能を提供しているのは日本では当社だけ。競合は米国企業だが、データ提供方法が違い、当社は顧客の要望に応じて撮影する「タスキングベース」で、非常に無駄が少ないビジネスとなっている。複数の衛星があるので、撮影頻度やエリアの向上が図れる。顧客実績としてはオーストラリアの大規模農地のモニタリングや、デブリなど宇宙状況の把握といったことを行っている。来年7機の次世代「グルース3」を打ち上げることを皮切りに、多数の衛星を打ち上げる計画。28年度には高分解能衛星の打ち上げも予定している。中分解能衛星は広域をモニタリングでき、高分解能は限られたエリアを非常に細かく見られる。この強みを組み合わせ、日常的に中分解能で広域をモニタリングし、何か変化が起きたらその部分を高分解能で撮影するという使い方が考えられる。これを1社で実現した事業者はなく、われわれの強みにしていきたい。
政府系から民間顧客へ拡大図る
アクセルライナー事業では、100キログラム級の衛星を中心にしている。世界中で成長の高い市場で、実績があることが非常に大きなポイント。政府系案件を中心に成長しており、特に大きいのがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の経済安全保障重要技術育成プログラム「Kプログラム」。最大600億円の予算がついた大きなプロジェクトで、衛星間で光通信をする実証衛星を作ろうというもの。今後、民間向けサービスを拡充していく。これまでは顧客のニーズに合わせたフルカスタム生産だったが、衛星のニーズが高まる中、設計を汎用化した「汎用小型衛星バス」で効率化。将来的には通信衛星、測位衛星といった全く目的の異なる衛星にも対応したい。また、宇宙事業の部品開発のために、トヨタなど自動車メーカーが参入してきているが、宇宙の軌道上で気軽に実証できる「アクセルライナーラボラトリー」という仕組みを作り、将来的には定期便のように年に何回も打ち上げて、タイムリーに低コストで実証できるようにしたい。われわれ自身が衛星オペレーターなどで部品を評価したり、アドバイスを提供したりなど付加価値サービスを加えられるのがポイント。
失敗、故障リスクにも対応
衛星の打ち上げ失敗や故障のリスクだが、現在われわれはスペースX社のロケットを中心に使っており、非常に信頼性が高い。一方で1社依存もリスクと認識しており、世界中の打ち上げサービス事業者のなかから最適な打ち上げ手段を選択できるようにしていく。故障についてはこれまで多くの衛星を開発、運用した実績があり、不具合が起きた時のノウハウがたまっている。設計も汎用化しており、リプログラミングと言って、搭載のソフトウェアを書き換える機能もある。こうしたリスクは今後どんどん下げていけると考えている。
上場の意義
折原CFO (黒字化は)いつですというのは申し上げにくいが、来年の「グルース3」7機の打ち上げとそれによる収益貢献が今後当社の成長に大きく寄与していくと考えている。(上場で)中期的な成長に必要な資金はおおよそ確保できた。それ以外、(上場で)人材採用や知名度向上にも効いてくる。さらに、今は計画はないが、M&Aといったインオーガニックな成長も検討できるようになる。(HS)