経営陣を刷新 新社長に聞く
エコノミスト櫻井英明が注目する企業のトップにインタビュー。今回はSAAFホールディングス(1447・G)の左奈田直幸社長(写真右)。2024年9月にITbookホールディングスから社名変更した同社は、同年3月には金融庁から有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告を受けるなどトラブルが頻発していた。今年6月に経営体制を刷新、同社を率いることになった左奈田社長に現状を聞く。
――6月、社長に就任された。
前2025年3月期の業績は皆さまの期待を大いに裏切るものでした。要因のひとつに中央集権的な体制によるガバナンスの問題があります。経営から最も遠くに位置する海外事業についてはコントロールがまったく効かず、業績面で大きな穴を空けてしまったのです。前経営陣は業績不振の責任により退任されましたので、再建に向け大改革に着手しています。
――意気込みを聞きたい。
体制を改めるべく、社外取締役や監査役会の方々が厳正な審査を重ねた上で、社長に指名していただきました。私はソニー傘下の電子部材メーカー、現在のデクセリアルズ(4980・P)で社会人生活をスタートさせました。最終的にはCFOを務めるなど現場から中枢までを経験しています。オールラウンドプレーヤーとしての経験を持って、使命を果たしていきます。
――ガバナンス体制の見直し、具体的には「何を」しているのか。
まずは取締役会を中心とした経営監督機能と、業務執行側機能とを明確に分離しました。任意の指名・報酬委員会も立ち上げて、私を含めた執行役員の指名や報酬の決定を行うなど、統制と牽制がしっかり効く体制を目指します。さらに業務執行側では執行役員会を発足し週次で開催するなど、意思決定、つまり変革のスピードを上げていく準備がようやく整ったところです。
――事業について。
従来からの「コア4事業」としていたセグメントとは別に、事業セクターを設置しました。大きな違いは、コア4事業とは分けて「海外事業セクター」を新設したことです。同じ過ちは許されません。方向性の見直しを含めて、専務執行役員が旗振り役となって立て直しに着手しています。
――そのほかの事業はどうか。
売上高の約半数を占める「建設土木事業セクター」は、傘下のサムシングを中心とし、戸建て住宅向けの地盤改良を主力としています。しかし戸建て住宅着工件数は減少傾向にあり、一方で単独世帯や外国人居住者の増加等により需要が高まっている集合住宅にもさらに対応するべく、場所打ちコンクリート杭工事を専業とするユーシンを昨年、子会社化しました。
加えてサムシングは2022年には鉄道土木に特化した東名も買収しています。今後は都市計画などインフラ土木に市場をシフトするなど、各社のシナジーを最大減に発揮しつつ、人口動態など目先の変化に左右されない成長ストーリーを現在、策定中です。
――田中角栄氏が唱えた日本列島改造論から50年が経過。インフラ土木のニーズは旺盛だ。
国土強靭化は国家プロジェクトにもなっていますし、気候変動から来る防災面からも多くの需要が見込まれています。加えて建設土木事業セクターについては、システム開発事業セクターとの相乗効果がさっそく発揮されることも期待しています。
――相乗効果とは?
測量系のDXです。AI搭載型360度カメラを身体に装着する「4DKanKan®」シリーズと、地盤ネットホールディングス(6072・G)が持つ3Dスキャン技術の活用を促進するため、8月に業務提携しました。点群をデータ化・解析できる技術で、建設現場のみならずメタバースが盛んなエンタメなど幅広い領域を視野に入れて、市場創出に向けた技術連携や販売促進を目指します。加えて技術という点では、コンサル・人材事業セクターにおいても生成AIを活用したマッチングシステムの開発を進めています。
――先日発表した1Q決算は増収増益だった。
建設土木事業セクターは戸建て住宅市場が厳しい中でも昨年に子会社化したコンクリート杭工事が好調に推移しました。コンサル・人材事業セクターは、教員免許を所有する人材等を派遣する教育人材事業も教育人材の需要が高く好調に推移しました。またシステム開発事業セクターは、下期偏重のビジネスモデルであるものの前期に比べて赤字幅を圧縮し利益の確保に繋がりました。
「SAAF HDは変わる」「MTG2028」
櫻井英明(さくらい・えいめい)氏
最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評がある。ラジオNIKKEIでは火曜「ザ・マネー 櫻井英明のかぶとびら」、木曜「櫻井英明のシン投資知識研究所」などに出演。
――今後の見通しはどうか。
1Qが好調だったものの通期計画は変更していません。過去体制では業績下方修正を繰り返して投資家、株主の皆さまの期待を裏切ってしまいました。しかしSAAFホールディングスは「有言実行」企業に生まれ変わります。負の遺産を整理しながら数字を堅実・着実に積み上げていきます。
――SAAFホールディングスは変わる、左奈田社長の強い意気込みを感じる。
主力事業については、新たに事業方針として掲げているMTGを基に進めていきます。定義する市場でModel(収益の上がる事業モデル・勝ちパターン)にTechnology(技術主導付加価値)を掛け合わせながら、Growth(成長ストーリー)に乗せていく。まずは2028年度を見据えて中期経営計画「MTG2028」を策定しています。ご期待ください。