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IPO2023年10月27日

IPO社長会見 笑美面 介護家族の負担を解消

笑美面(えみめん、9237・G)が10月26日、東証グロースに新規上場した。同社は高齢者施設と入居検討者のマッチングサービスを展開。初値は公開価格を45%上回る1,801円だった。上場当日の記者会見で榎並将志代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。

2つの話題性……2つの点で“初物”と言える話題性がある。1つは「シニアホーム紹介サービス」という新しいサービスを柱とする会社として初の上場企業という点。もう1つは社会的インパクト。昨今はSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)など、投資の世界に社会的価値を求める潮流がスタンダードになっている。さらに踏み込んだ手法として、社会的インパクト投資という概念がある。当社はインパクト企業として2019年よりインパクト・メジャメント&マネジメントという手法を取り入れてきた。これは社会的インパクトと財務的インパクトを両立するKPIを設定し、達成管理していくという手法。欧米ではインパクト企業としてIPOを果たすという事例は複数あるが、日本では初の「インパクトIPO」の事例になるのではないか。

社会問題解消へのプロセス……インパクト企業の手法の1つとしてロジックモデルというものを作成し、短期アウトカム(短期間に目指す社会変化)を達成するためのKPIを4つ定めている。1つはMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)からの紹介数。MSWは病院に在籍しているような専門職の方で、入院患者の退院・転院、ときには家族・本人と医師との間に入って治療方針のすり合わせをする、また、依存症患者の社会復帰支援なども担う。現在日本では医療費適正化の取り組みの一環として入院期間の短縮化が求められており、そのしわ寄せが患者に来ている。しかし、病院としても民間のシニアホームの情報がたくさんあるわけではなく、社会的入院(治療の必要がない患者が長期間入院し続けること)が課題となっている。当社がMSWから情報を頂いてシニアホームにつなぐことでこれが解消する。

これからの生活を考える「家族会議」……2つ目は「家族会議」の実施数。家族会議というのは当社の造語で、原則対面でコーディネーターがお伺いし、介護のことやシニアホームの種類についていろいろお伝えする場のこと。ここで隠れたニーズをくみ取ったり、様々な要望を整理する。また、シニアホームを利用することに罪悪感を持っている家族もたくさんいるので、そういった方々に「体の介護はプロに任せて、心の介護に専念していただく」というお話をする。もちろん家族会議を実施しても入居に至らないケースはあるが、それでも私たちは社会的価値があると考えて、このKPIを重要視している。

積み上げ型のビジネスモデル……3つ目はマッチングが行われた成約数を指す「スマイル数」。そして4つ目はコンサルティング事業で行っているプラットフォームサイトの登録数。シニアホーム自体もどんどん良くしていく、質を上げていくことがビジョンにつながると考えているので、このプラットフォームサイトを通じてシニアホームに気づきを提供していく。シニアライフサポート事業は、現在8,800棟以上のシニアホームと提携している。シニアホームから成果報酬を得るフロー型のマネタイズだが、紹介パートナー(MSWやケアマネージャー)から継続的に紹介があるという点で、事業構造としては積み上げ型と言える。

適切な情報と支援の提供……介護家族は予備知識や準備がない状態でいきなり介護に巻き込まれるというケースが多く、シニアホームに対する誤解も多い。1つは、シニアホームは入居待ちで何年も入れないという誤解。新聞報道などでもよく目にするが、これは実は特別養護老人ホームを指しており、介護保険が創設された2000年以降は多種多様な民間のホームが受け皿となっている。もう1つは、民間のホームは価格が高いという誤解。これも介護保険創設以降は民間の参入がどんどん増え、競争が生まれたことで価格は下がっている。この“誤解”が“諦め”を生み、老々介護やビジネスケアラー、孤独死といった介護にまつわる問題を引き起こす原因となっている。私たちはこの問題を家族会議で解消している。

SDGsの観点……当社は医療・介護・福祉の業界に属しているので、一般的にはSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」に分類されると思われがち。しかし、当該目標は開発途上国の疫病対策やワクチン、医療不足がターゲットとなっており、実は日本の介護サービスとはあまり関連性がないというのが当社の見解だ。当社のサービスとしては、目標5.4「無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する」にインパクトがあると捉えている。介護家族を身体的介護から解放し、また、過度な家族介護を行うことによるビジネスケアラーの解消にも寄与している。(SS)

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