3期連続増配、予想配当利回り7.8%、有利子負債ゼロ——この三条件を同時に満たす銘柄が東証に存在する。スクロール(8005)である。なぜこの銘柄は、大手メディアの高配当特集にほとんど登場しないのか。
まずバランスシートの変貌を見る。同社の有利子負債は2023年3月期の60.8億円から、2024年3月期60億円、2025年3月期30億円と段階的に圧縮され、2026年3月期にはゼロに到達した。わずか3年で完済である。自己資本比率は同期間に60.4%から65.1%へ上昇し、財務基盤は実質的に「別の会社」になった。
注目すべきはキャッシュフローの構造転換だ。有利子負債の返済負担が消えた結果、2027年3月期のフリーCF予想は80.8億円と、2年前の31億円から2.6倍に膨張する見通しとなった。営業CFも69.4億円予想と過去最高水準に迫る。設備投資は8.7億円程度にとどまり、稼いだ現金の大半が株主還元に向かう構図が鮮明になりつつある。
EPS推移がこの構造変化を裏づける。2026年3月期は80.68円へ一時的に落ち込んだものの、2027年3月期予想は127.17円と過去最高を更新する見込みだ。PERは約12.6倍、PBRはBPS1,059円に対して約1.5倍。高配当銘柄としての評価がバリュエーションに十分に織り込まれているとは言い難い水準にある。
ではなぜ「発見」されないのか。一つの手がかりは、直近の株価と出来高の乖離にある。先週スクロールは+17.6%という急騰を記録したが、出来高のZ値はわずか0.34。通常、これほどの値動きには出来高の急増が伴う。それが起きていないということは、薄い板のなかを限られた買い手が値を切り上げた可能性を示唆する。逆に言えば、売り手がそもそも少ない——つまり既存の保有者は手放す意思がない状態が推察される。
通販業界は構造的に「地味」なセクターだ。AIも半導体もない。しかし実質賃金が回復局面に入った日本において、消費者の可処分所得改善がEC・通販セクターに波及する経路は合理的に想定できる。スクロールが無借金経営の果実を配当還元に振り向ける経営方針をさらに明確にすれば、高配当・内需消費という二つのテーマが交差する接点として、機関投資家の資金フローに変化が生じる可能性がある。
インフレが常態化しつつある日本で、「配当利回り7.8%・無借金・3期連続増配」という条件を備えた銘柄が市場の視界の外に置かれているとしたら、その理由は銘柄の側にあるのか、それとも市場の側にあるのか——そしてそれは今、変わりつつあるのだろうか。
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