朝、証券アプリを開くと保有株が寄り付きから上昇。ところが日中は、引けにかけてじりじりと値を消す。多くの個人投資家に覚えのある光景だろう。
近年の日本株では、株価の上昇が取引時間中よりも、市場が閉まっている時間帯に偏る傾向がある。いわゆる「オーバーナイトプレミアム」だ。筆者がこの概念を知ったのは、あるエンジニアのブログ記事。読むだけでは身につかないため、東証プライム市場の国内普通株を対象に実際に計測した。
結論は明快。計測できた1534銘柄のうち、87.3%が「夜型」だった。
「夜のリターン」とは何か
株の1日を、二つの時間帯に分解する。
•夜間リターン:前日終値から翌朝の始値(寄り付き)まで
•日中リターン:当日始値から当日終値まで
前日100円で引けた株が翌朝102円で寄り付けば、夜間リターンは△2%。そこから101円で引ければ、日中リターンは約▼1%となる。
注意したいのは、「夜間」が夜中の売買を意味しない点。市場が閉まっている間にも、決算発表、米国株の値動き、為替、政治・経済ニュースといった情報は絶えず生まれる。それを受けた注文が翌朝の板に集まり、寄り付き価格が102円で決まる。つまり夜間リターンとは、夜のうちに生まれた情報が朝一番で価格に反映された部分である。
ここから導かれる重要な事実がひとつ。102円の寄り付きを見てから買っても、100円から102円までの上昇は取れない。夜間リターンを受け取れるのは、情報が価格に織り込まれる前、つまり前日から株を保有していた投資家だけだ。
「夜型度」を測る物差し
1日単位の夜間・日中リターンは、決算やニュースで大きくぶれる。そこで、きっかけとなったブログ記事で紹介されていた指標「SessionTilt(セッション・チルト)」を採用した。チルトは「傾き」の意。銘柄の値動きが夜と昼のどちらに傾いているかを示す。
算出の考え方は3段階。
1.毎日の「夜間リターン − 日中リターン」を記録
2.その差を、直近ほど重く扱う平均で平滑化。今回は約半年(126営業日)前のデータの重みが当日の半分になる設定。古いデータを一気に捨てず、徐々に影響を薄める手法
3.値動きの荒い銘柄ほど差も大きく出るため、過去1年の値動きの大きさ(ボラティリティ)で割り、銘柄間で比較できる形に調整
プラスなら夜型、マイナスなら日中型。加えて「夜型に移行しつつあるか」を捉えるため、1か月(21営業日)前からの変化幅も算出した。
※分析基準日は2026年6月15日。株価データは最大10年分の日足。
プライム市場の9割近くが「夜型」
結果は想定以上に鮮明だった。
•SessionTiltを算出できた1534銘柄のうち、87.3%がプラス(夜型)
•下位25%の境界値(第1四分位)でもプラス。一部の銘柄が全体を押し上げた結果ではない
•1日あたりの平均リターン(全銘柄の中央値)は夜間△0.111%、日中▼0.037%
平均的なプライム銘柄では、上昇の大半が寄り付きまでに発生し、日中はむしろ小幅に押し戻される構図だ。
時系列では、2017年頃は日中型が多数派。その後は振れを伴いながら夜型へ傾き、2020年後半以降はおおむね夜型が優勢となった。2021年以降は、多くの期間で7〜9割の銘柄が夜型という状態が続く。図1の下段を見ると、2018年頃までは日中リターンが夜間を上回り、2019〜2020年にかけて両者の位置が逆転したことがわかる。

ただし、夜型化の原因まではこの分析で特定できない。米国株の影響力の高まりか、為替か、決算発表の時間帯か、あるいは寄り付きに注文を集中させる投資家行動か。始値と終値だけのデータでは、各要因の寄与を切り分けられない。
33業種すべてが夜型、でも「中身」は違う
東証33業種で見ても、全業種でSessionTiltの中央値がプラス。上位は保険業、ゴム製品、サービス業、石油・石炭製品、その他金融業、卸売業。最下位は銀行業だった。

興味深いのは最下位の銀行業。銀行株の夜間リターン中央値は△0.160%と、むしろ高水準にある。ただ日中も△0.128%と堅調。夜も昼も強いため、「夜と昼の差」で測るSessionTiltは小さく出る。
つまりこの指標は「夜に儲かる業種ランキング」ではない。測っているのは、値動きが夜と昼のどちらに偏っているかという銘柄の「性格」。夜に強いことと、夜に偏っていることは別物である。
「夜型になりつつある」銘柄
個別銘柄の分析対象は、直近3か月の売買代金(中央値)が1日1億円以上の1281銘柄。SessionTiltの上位には、サービス、情報・通信、卸売、機械などの中小型株が多く並んだ。
もう一つの切り口が「1か月でどれだけ夜型に動いたか」。こちらの上位には、SessionTiltがまだマイナス、すなわち現時点では日中型の銘柄も含まれる。例えばニッスイ(1332・P)。値はマイナスで夜型とは言えないものの、1か月で夜側へ大きく振れた。
典型例はアネスト岩田(6381・P)。SessionTiltで上位20銘柄に入りつつ、1か月の変化幅では首位。直近3か月(63営業日)は一貫してプラスで、過去1年の夜間最大変動も3.85%にとどまる。一度の急騰に依存しない、「すでに夜型で、なお夜型化が進む」状態だ。
ランキングの落とし穴──「一発屋」を見分ける
ただし、ランキングの鵜呑みは禁物。決算サプライズ、TOB、ストップ高など、一度の大きな値動きで数値が跳ね上がるケースがあるためだ。
象徴的なのがFIG(4392・P)。過去1年の夜間最大変動は△68.8%、10%以上動いた夜は10回に及ぶ。データの誤りではない。連続ストップ高を受け、2026年5月12日にJPXが値幅制限を拡大したほどの実際の値動きである。同社の高い数値は、材料相場による「イベント駆動型」と見るのが妥当だろう。
整理すると、夜型銘柄には少なくとも三つの類型がある。
•持続型:平常時から少しずつ夜に偏る
•転換型:日中型から夜型へ移行しつつある
•イベント駆動型:単発の大きな材料で数値が跳ねる
数値が同じでも、意味はまったく異なる。なお、この分類は結果の解釈のために事後的に加えた補助分析。「この条件で選べば儲かる」と主張できる性質のものではない。
投資家として、この数字とどう付き合うか
まず明確にしておきたいのは、今回の検証が「夜型銘柄を買えば儲かるか」を対象としていない点。SessionTiltは将来の予測値ではなく、過去の値動きがどの時間帯に偏っていたかを示す「状態量」だ。寄り付きと引けで実際に売買すれば、手数料、売買価格の差(スプレッド)、寄り付きで想定価格に約定しないリスクが伴う。
また本分析は、2026年6月15日時点のプライム銘柄について過去にさかのぼったもの。そもそもプライム市場の区分は2022年4月の開始である。その間に上場廃止となった銘柄などは含まれず、生き残った銘柄だけを見る偏り(生存者バイアス)も残る。
それでも、個人投資家にとって有用な視点は三つある。
第一に、寄り付きの値上がりに飛びつく前の一呼吸。朝の時点で上昇しているなら、夜間に生まれた情報はすでに価格に織り込み済みだ。
第二に、保有銘柄の「情報の時間帯」の把握。夜型の銘柄であれば、株価を動かす情報は東京市場の取引時間外、すなわち米国市場や為替の動き、引け後の決算発表などにある可能性がある。確認すべきニュースの時間帯も変わってくる。
第三に、変化の察知。日中型だった銘柄が夜型へ動き始めたなら、株価を動かす材料が変わりつつある兆候かもしれない。
おわりに
「オーバーナイトプレミアムとは何か」という素朴な疑問から始めた検証だった。実際に手を動かすと、夜間リターンは不可解な超過収益ではなく、市場の休止中に生まれた情報が翌朝の始値に反映された結果だと理解できる。
チャートは「いくら動いたか」の記録。これを「いつ動いたか」で切り分けると、その銘柄が世界のどの時間帯の情報に反応しているかが浮かび上がる。次の課題は、為替・米国株・商品価格といった値動きの要因との突き合わせ。「なぜ夜型なのか」の解明である。
※本稿は2026年6月15日時点のデータに基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は読者自身の責任で行われたい。
※データ:対象銘柄はプライム・内国・普通)、株価は日足(最大10年)。
※SessionTiltの考え方はgamella氏のZenn記事を参考にした。 gamella氏の元記事(Zenn)
